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阿古智子 ロシア・ウクライナ戦争とコロナ下の中国の内実

阿古智子(東京大学教授)

孤独な独裁者の悲しい性

 ロシア・ウクライナ戦争は、権威主義と民主主義との代理戦争の様相を呈している。そして、世界の権威主義を牽引しているのは中国とロシアである。

 政治学者のラリー・ダイアモンドは、昨今の民主主義の失敗は突然の軍事クーデターといった昔ながらの方法で起きているのではなく、忍び寄る権威主義によって引き起こされていると指摘する(市原麻衣子監訳『侵食される民主主義』上下、勁草書房、2022年)。それは、決まった順序や明確な段階を伴わず、絶え間なく進行するが、一般的な台本があり、それをダイアモンドは「専制の12段階プログラム」と呼ぶ。その1から11の段階では、反対派は悪者として扱われ、裁判所やメディアは独立性を維持できず、市民社会の抑圧、経済界への脅し、公共放送やインターネット、公務員や治安機関への厳格な統制、選挙規則の改悪が顕著になっている。最後の12段階目でさらにこれまでの段階を精力的に繰り返すことで、政治体制に反対したり批判したりしようとする市民の恐怖心を深め、あらゆる形態の抵抗を封じる。

 2018年に、それまで維持してきた集団指導体制を放棄し、「国家主席は2期まで」という憲法の規定を改定した習近平主席は、今秋の共産党大会で3期目の続投を決め、党・国家・軍のトップの座に君臨し続けようとしている。しかし、個人崇拝の復活や経済・社会の統制強化など毛沢東時代への回帰を強める習氏の路線には、党内で異論も根強い。党大会を前にして、習氏の後継者となり得る人材や習氏を支える布陣についてほとんど情報が出てこないのは、習氏が信頼する側近を持てていない証左ではないか。

 独裁の強度を強めれば強めるほど、独裁者は孤独に陥る。周りはイエスマンばかりになり、真に役立つ重要な情報が集まらなくなる。長年絶対君主のように統治を行ってきたプーチン大統領は、軍や情報機関から正確な情報が得られず、そのために軍事作戦に失敗しているとの観測が強まっている。習近平主席の周辺にいる者たちも、怖くて真実を言えず、政策の具申なども控えているのではないか。

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