阿古智子 ロシア・ウクライナ戦争とコロナ下の中国の内実

阿古智子(東京大学教授)

立ち位置を決めるのに苦労

 軍事戦略上のミスを重ね、経済制裁に追い込まれるロシアを見て、中国の対台湾政策は再考を迫られているとも言われる。だが、中国政府はロシア寄りの発言を続けており、3月2日のロシア軍の即時撤退を求める国連総会の決議を棄権し、4月7日の人権理事会におけるロシアのメンバー資格を停止する決議案に反対した。イスタンブールでの和平交渉翌日(3月30日)には、王毅外相が安徽(あんき)省にロシアのラブロフ外相を迎えて会談し、「米国等による経済制裁を非難する声明」を発表した。

 ソ連時代の勢力圏を取り戻そうとするロシアのプーチン政権は、西側民主主義陣営に対抗し、「中華民族の偉大なる復興」を掲げる習近平政権と酷似している。とはいえ、中国とロシアの間には歴史を通じた不信感も存在するのではないか。1950年代後半からの中ソ対立は、69年3月にはウスリー江の珍宝島(ちんぼうとう)事件(ダマンスキー島事件)などの中ソ国境紛争にも発展した。同年8月には、新疆ウイグル自治区で武力衝突が起こり、中ソの全面戦争と核戦争にエスカレートしかねない重大な危機に陥った。中ソはベトナム戦争でも共同歩調を取らなかった。

 3月25日、習近平主席はイギリスのジョンソン首相と電話で会談し、ウクライナ問題の政治解決に向けて「建設的な役割を果たす」との意向を示した。4月4日には、王毅外相がウクライナのクレバ外相と電話会談し、ロシアとの停戦協議や欧州の安全保障メカニズムの構築を促した上で、「客観的で公正な立場から、引き続きわが国のやり方で建設的役割を果たしたい」と強調し、クレバ外相は「中国の国際的影響力を重視している。中国と意思疎通を保ち、中国が停戦のために重要な役割を果たすよう望む」と述べている。


 中国政府は世界情勢を見極めるのに苦労しながら、自らの立ち位置を有利にしようとしている様子がうかがえる。

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