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阿古智子 ロシア・ウクライナ戦争とコロナ下の中国の内実

阿古智子(東京大学教授)

「共同富裕」やコロナ対策の迷走

 昨年、習近平政権は突如、義務教育段階の全ての学習塾を非営利組織化するという「塾禁止令」や、オンラインゲームを金・土・日と祝日の夜1時間しか提供してはならないとする方針を打ち出した。官製メディアは「オンラインゲームは精神的アヘン」「暴利をむさぼる学習塾は敵である。資本家と体制内の欲張りな走資派(資本主義の道を歩む実権派)の結託を許すな」といった、文化大革命のスローガンを彷彿とさせるような批判を展開した。

 成長が著しい大手IT企業などを独占禁止法で取り締まり、「不正収入」「不合理収入」に対して多額の罰金を徴収する一方で、富の分配を強化するための「共同富裕」政策として、企業には農村振興や低所得者向けの医療・教育支援事業に多額の資金を拠出させている。このようなやり方は、社会保障や経済成長のための合理的な判断に基づく施策だとは到底思えない。

 さらに、習近平政権は今年に入ってからも西安、天津、深圳(しんせん)、長春、上海などで極端な「封城」(ロックダウン)とPCR検査による「清零政策」(ゼロコロナ政策)を頑なに続けており、その弊害を受けている市民から悲鳴が上がっている。上海市は4月に入って2万人以上の新規感染者を出しているが、その9割以上が無症状感染者であった。それにもかかわらず、上海政府は現場責任者である華山病院感染科主任・張文宏(ぶんこう)氏らの「コロナとの共存」の提案を無視し、厳しいゼロコロナ政策を続けた。

 ソーシャルメディア上には、お笑い番組の一コマかと思われるような動画が次々と投稿され、怒りと憤り、冷笑のコメントが溢れている。どこかに向かう途中だったバスが停止させられているのだろうか。乗客らはバスの中で一夜を過ごし、外に出させてもらえないようだ。「封鎖」のラベルが貼られた運転手の横の出入り口は、養生テープでぐるぐる巻きにしてある。「出してくれ。何も食べるものがないんだ。早く家に帰らせてくれ!」と乗客が携帯電話の相手と運転手に喚き立てている。高層マンションの住民たちが、窓辺で一斉に鍋を叩いて「出してくれ!」と悲壮な声を上げている動画も拡散した。フェイクニュースが混じっていると思われるが、高層ビルから飛び降りる人たちの画像もシェアされてくる。閉じ込められ、家から一歩も出られない中で、食料が尽きてしまい、体が衰弱している人も確実にいるだろう。中には命を落とした人もいるかもしれない。

「息子が40度の熱を出しているの。誰か解熱剤を持っていませんか」と家々を回るお母さんに対して、誰もドアを開けようとしない。防護服を着た治安当局の職員は大きな魚捕り用の網で犬を乱暴にすくい上げ、キャンキャン鳴いている犬を捕獲用のカゴに叩きつけた。必死に阻止しようと追いかける飼い主と思われる男性は、防護服の男に蹴り付けられて地面に倒れた。TikTokで自撮りするトラックのドライバーは、「私たちが物資を運ばなければ、人々の生活はどうなるのだ。トラックから出られず、食べ物もないし、トイレにも行けない。くそにまみれていろというのか」と憤慨する。

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