阿古智子 ロシア・ウクライナ戦争とコロナ下の中国の内実
普通でない国にはいられない
「我々が何をしたというのか。どうして罪人のように扱われなければならないのか」という人々の悲痛な叫びも虚しく、ウイルスの変化を見極めたコロナとの共存政策が世界の主流となっていても、中国政府は狂ったように非合理的で非人道的なゼロコロナ政策を続けている。上海では「一比十四億」(1対14億人)という新語が生まれたが、14億の中国人が反対しても、たった1人の皇帝・習近平主席が推進する政策は正しいのであり、必ず従わなければならないのだ。
最大の経済都市・上海がロックダウンに追い込まれ、一時はほとんどの流通がストップしたため、国際経済にも大きな影響がもたらされた。厳しい外出制限が続く中、アメリカ政府は上海の総領事館の職員やその家族を現地から退避させることを決断した。上海市トップの李強書記は習近平主席に近い人物だと言われているが、4月11日に医療従事者や住民ボランティアを激励するために市内の住宅地を視察した際、「にんじんとじゃがいも、玉ねぎが2個ずつしか支給されていない」「国をこんな風にしてしまったあなたたちは有罪だ」「恥を知れ」と抵抗され、その動画が広く拡散された。削除されても依然、出回っている。
インターネット上には、こんな声が聞こえる。「ニューヨークでも東京でも、コロナのために日常の自由が奪われたが、中国のようにはならなかった。今後確実に、中国から富裕層が出ていくだろう。こんな普通でない国にはいられない」。感染症対策で高い評価を得てきた香港も、中国政府の指示を受けたのか、ゼロコロナ政策を徹底しようとしたため公立病院はパンク状態となり、火葬場の対応が追いつかなくなった。「あれだけ自由を謳歌し、効率的な経済活動が行われてきた国際都市の香港が、中国式ガバナンスによってここまで落ちぶれてしまった」。この状態が続けば、香港からの人と資金の流出も止まらないだろう。
1971年大阪府生まれ。大阪外国語大学外国語学部卒業後、名古屋大学大学院国際開発研究科修士課程修了、香港大学教育学系博士号取得。在中国日本大使館専門調査員、早稲田大学准教授などを経て現職。単著に『貧者を喰らう国』『香港 あなたはどこへ向かうのか』、共編著に『香港国家安全維持法のインパクト』などがある。