上田洋子 ロシア兵は悪の鬼「オーク」なのか

上田洋子(ロシア文学者・ゲンロン代表取締役)

「ウクライナ人はロシア人を許さないだろう」

 戦争が始まって1ヵ月が過ぎた3月27日、ロシアの独立系メディアのジャーナリストらが、ゼレンスキー大統領にインタビューを行った。インターネットテレビ「ドーシチ」出身のミハイル・ズィガリ、現「ドーシチ」編集長のチーホン・ジャトコ、ウェブメディア「メドゥーザ」の編集長イワン・コルパコフ、中道の経済紙『コメルサント』のウラジーミル・ソロヴィヨフ(右派のテレビジャーナリストとは別人)、それにノーベル賞を受賞した『ノーヴァヤ・ガゼータ』紙のドミトリー・ムラートフも、画面上には現れなかったが参加していたそうだ。

 戦争初期だったことや、開戦直前にゼレンスキー大統領がロシア国民むけにロシア語で演説したことなどもあり、これらメディアの主な読者・視聴者であるロシア人との関係に話題が及んだ。ゼレンスキーの言葉はシビアだった。あなたたちロシア人は関係修復のための努力をすべきだが、いまのウクライナ人は決してロシア人を許さないだろう。それでも子や孫たちのために努力を続けるべきだ。これが彼の答えだった。

 なお、このインタビューの主なトピックは停戦だった。この頃はまだ停戦協議が行われていたのだ。ゼレンスキーが、犠牲者を極力少なく抑え、早く停戦したいので東部ドンバスの親ロシア派支配地域やクリミアを攻撃するつもりはない、中立化や非核化について、ロシアと話し合う用意がある、などと語っていたのが今や懐かしい。その後、ブチャの虐殺が明らかになり、東部や南部の戦局も変わり、停戦という言葉はほぼ聞かれなくなってしまった。

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