保坂三四郎 プリゴジンの反乱の余波はまだ続く

保坂三四郎(国際防衛安全保障センター(エストニア)研究員)
写真提供:photo AC
 世界中に衝撃を与えた6月24日のプリゴジンの反乱。あっけなく収束したかに見えたこの反乱の背景、今後のプーチン・ロシアに及ぼす影響を、話題の中公新書『諜報国家ロシア』著者の保坂三四郎氏が分析する。
(『中央公論』2023年9月号より抜粋)

「正義の行進」からの突然の撤退

 6月24日に起きたロシアの「民間軍事会社」ワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジンによる反乱は、あっけなく1日で幕を閉じた。プーチン大統領は、その1年前、プリゴジンに「ロシアの英雄」の称号を授与し、1ヵ月前にはウクライナ東部バフムート攻略へのワグネル突撃部隊の貢献を称えていた。

 一方、6月に入り、ショイグー国防相は、プーチンの了解の下、ワグネルに月末までに国防省と契約を交わすよう指示した。プリゴジンはこれに強く反発し、6月24日、ワグネルの部隊はロストフ州のロシア南部軍管区本部を占拠、さらにモスクワへ向けて「正義の行進」を始めた。だが、同日夕刻、プリゴジンは突如撤退を表明した。

 プリゴジンは、ロシアの政府機関ができない汚れ仕事を請け負ってきた闇社会の人物である。プーチンに直接アクセスできることから、その威光を借りてアンタッチャブルな存在となった。

 プリゴジンの反乱については、収束から1ヵ月が経った今も不明な点が多いが、本稿では、プリゴジンとプーチンをつないだサンクトペテルブルク市の闇社会、プリゴジンが管理するワグネルやメディア帝国を概観した後、この事件が今後のロシアに及ぼしうる影響を考察する。

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