保坂三四郎 プリゴジンの反乱の余波はまだ続く

保坂三四郎(国際防衛安全保障センター(エストニア)研究員)

「トロール工場」とメディア帝国

 プリゴジンの闇の活動はワグネルだけではない。2013年頃、プリゴジンはサンクトペテルブルクに「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」社を秘密裏に開設した。通称「トロール工場」と呼ばれ、ウクライナに関するフェイクニュースを拡散したり、ソーシャルメディアを通じて2016年の米国大統領選など欧米諸国の選挙や国内問題に介入したりしてきた。

 また、IRAと同じオフィスには、反欧米のニュースを発信する「連邦通信社」など16のニュースサイト運営会社が入った。これらプリゴジンの「愛国メディアグループ」は、アクセス数で国営のリアノーボスチなどに匹敵する一大メディア帝国を築いた。プリゴジンは、ロシアで利用者急増中のメッセンジャー・アプリ「テレグラム」のチャンネルも複数管理し、ロシア国防省批判キャンペーンで利用した。

 プリゴジンは当初、IRAとの関係を一切否定していたが、2023年2月に発言を一転させ、「資金提供どころか、自分で考案し、構築し、長年管理してきた」「西側の反ロシアプロパガンダからロシアの情報空間を守るためだ」と述べた。


(7月26日脱稿 続きは『中央公論』2023年9月号で)

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保坂三四郎(国際防衛安全保障センター(エストニア)研究員)
〔ほさかさんしろう〕
1979年秋田県生まれ。上智大学外国語学部卒業。旧ソ連非核化協力技術事務局、在ウクライナ日本国大使館などでの勤務を経て、2021年より現職。エストニア・タルトゥ大学ヨハン・シュッテ政治研究所在籍。専門はソ連・ロシアのインテリジェンス活動。近著に『諜報国家ロシア』がある。
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