保坂三四郎 プリゴジンの反乱の余波はまだ続く

保坂三四郎(国際防衛安全保障センター(エストニア)研究員)

非正規軍ワグネル

 ロシアによるクリミア併合後の2014年夏、ロシア国防省の幹部会議になぜかレストランプロデューサーのプリゴジンの姿があった。この会議でプリゴジンは、ウクライナ東部に侵攻したロシアの「志願兵」を養成する訓練場の提供を国防省に要請した。

「これはパパ(プーチン)からの指令だ」と伝えたプリゴジンに国防省が反論する余地はなかった。2015年、ロシア南部のクラスノダール地方のロシア軍基地内に書類上は「子ども保養施設」として建設されたこの施設は、ウクライナ東部の占領やシリアのアサド政権支援で残虐な戦争犯罪を犯すロシアの非正規軍ワグネルの本拠地となった。

 ロシアメディアの調査報道により、ワグネルの存在や活動実態は徐々に明らかになっていくが、2018年、中央アフリカにワグネルの活動実態を取材しに行ったロシア人ジャーナリスト3名が殺害され、シリアでのワグネルの活動を報じた記者も窓から「転落死」した。

 ロシアでは法律上、他国の紛争に傭兵として参加すること、その徴募や訓練は禁止されている。このため、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)が非公式にこの「民間軍事会社」ワグネルのリクルート、装備、ロジスティクスを支援した。

 2018年、オーストリアのテレビ局のインタビューを受けたプーチンは、ロシア政府とプリゴジンの関係を否定した上で、「米国国務省が、世界各地で内政干渉を繰り返す米国人篤志家ジョージ・ソロスとの関係を聞かれたら、それはソロス個人の活動だと答えるだろう」と述べ、プリゴジンが「個人として」活動していると強調した。しかし、プーチンの本音は首相時代の議会答弁に表れている。2012年、プーチンは民間軍事会社の合法化に関する与党議員の質問に答え、「民間軍事会社は国家が直接参加せずに国益を実現する手段である」と話した。

 反乱前夜の6月23日、アレクセエフGRU第一副局長は、動画メッセージでプリゴジンに思いとどまるよう呼びかけたが、その中でワグネルが設立された2014年から共に任務を遂行してきたと述べ、ワグネルへの国家の支援を事実上認めた。

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