高橋杉雄 戦争を防ぐために軍事の常識を知ってほしい

高橋杉雄(防衛研究所防衛政策研究室長)

本業は防衛省シンクタンクの公務員

──防衛研究所そのものにも注目が集まっています。ほかのシンクタンクとの違いや特徴は。


 一言で言うと、所属する研究員がみな国家公務員で、行政府の職員としての矩(のり)をこえてはいけないということです。発言は全て個人の見解ですが、それでも防衛費のように立法府で決めることには「こうあるべきだ」とは絶対に言えません。「プラス面はこう、マイナス面はこういうことがあります。あとは議論して決めてください」と答えてきました。

 防衛研究所は防衛省のシンクタンクで、我が国唯一の国立の安全保障に関する学術研究機関です。安全保障や戦史に関する調査研究、戦史史料の管理・公開を担っています。

 また、諸外国の国防大学に相当する教育機関でもあり、防衛省・自衛隊の幹部や他省庁の職員への教育も行っています。自衛隊は巨大な教育機関で、いくつもの学校が存在しますが、防衛研究所はその一番上に位置しています。具体的には、陸海空自衛官が佐官から将官となる前に受ける必要のある教育課程の一つである「一般課程」を受け持っています。将官ともなれば、単純に武器を使って戦うだけではなく、天下国家を語れなければならないので、広い視野からの教育が行われます。


──日本では、防衛研究所以外に安全保障に特化したシンクタンクはないのですか。


 大規模なものは国内にはありません。安全保障や防衛のマーケットが小さいためです。これが経済系のシンクタンクであれば企業のコンサルタントという仕事がありますが、安全保障の情報を知りたい顧客はほとんどいません。米国では防衛産業が安全保障系のシンクタンクを支えていますが、それは米国だからのことです。武器輸出を基本的に行ってこなかったこれまでの日本では、防衛産業にシンクタンクを支えるインセンティブはありませんでした。

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