鶴岡路人 ウクライナへの「支援疲れ」で問われるもの
鶴岡路人(慶應義塾大学准教授)
ウクライナ支援の国内向け説明
「ウクライナを負けさせない」「ウクライナを勝利させる」「ロシアを勝たせない」「ロシアを負けさせる」は、それぞれにニュアンスが異なる。各国の指導者は、自らの信条と政策、そして内政・外交のさまざまな事情を考慮したうえで発信内容を選択する。ウクライナ支援に当初から反対の勢力を別とすれば、ニュアンスの違いはあったとしても共通するのは、「支援を継続すべきである」という頭では理解している立場と、そうはいっても負担が増大するなかで「正直いって支援継続は厳しい」という本音との、内面での葛藤である。
そうしたなかで、国内向けの赤裸々なロジックが登場することもある。米国の特に保守派の一部では、「これだけの支援額でロシアの陸軍を半壊させることができるなら安いものだ」という議論が根強い。また、バイデン大統領も2023年10月20日のテレビ演説では、ウクライナへの武器供与が主として米軍の在庫からだったことを指摘したうえで、支援の予算は、米軍の在庫の補充、つまり米国を守るための武器に使われており、しかもその武器は米国内で製造されていると強調した。
この部分だけを聞けば、米国による代理戦争論や、「軍需産業が儲けているだけだ」という批判につながる懸念もある。しかし、ウクライナ支援への世論の支持が低下するなかで、「自分たちの利益になっている」ことを国内向けのメッセージとして強調するのは、米国のみならず民主主義国の指導者にとっては自然な戦術といえる。ウクライナにとっても、各国において、ウクライナ支援が自らの利益として捉えられるのであれば心強い。支援への支持が続く可能性が高まるからである。ウクライナ自身も、価値や道徳に基づく議論のみを期待しているわけではない。それよりは、支援が継続することの方が重要である。