鶴岡路人 ウクライナへの「支援疲れ」で問われるもの

鶴岡路人(慶應義塾大学准教授)

支援額の実態

「支援疲れ」の今後を考える前に、これまでの支援の規模を確認しておきたい。支援の集計方法には各種あるものの、内外のメディアや研究で最もよく引用される独キール世界経済研究所の「ウクライナ支援トラッカー」(2023年9月:https://www.ifw-kiel.de/topics/war-against-ukraine/ukraine-support-tracker/)でみてみよう。

 米国による支援が圧倒的に多いといわれることが多いが、表明された金額の合計では、EUおよびEU加盟国が合計1319億ユーロに対して米国が695億ユーロ、日本を含むその他諸国が合計365億ユーロになっている。EUの場合は、ウクライナへの財政支援(借款)が多く、また長期的なコミットメントを示す方針になっていることから、表明額が膨らんでいるという事情がある。そうだとしても、EUによる支援が極めて重要な位置を占めていることは事実である。

 また、各国のいわゆる「負担感」に直結するのは、GDP(国内総生産)比での数字である。EU加盟国についてはEUによる表明分を加盟国の構成比に応じて各国分に上乗せすると、負担が大きい順にリトアニア(1・9%)、エストニア(1・8)、ノルウェー(1・7)、デンマーク(1・7)、ラトヴィア(1・6)、スロヴァキア(1・3)、ポーランド(1・3)、オランダ(1・1)となる。ちなみに、ドイツは0・9%である。リトアニアやエストニアは、GDP比であればドイツの2倍もの負担をしていることになる。

 あるいは、二国間支援に国内でのウクライナ避難民支援の負担分を加えると、GDP比でポーランド(3・2%)、エストニア(2・4)、ラトヴィア(2・1)、リトアニア(2・1)、チェコ(2・1)と、さらに大きな数字になる。

 バルト三国やポーランドが相対的に多くの支援をおこなっている、ないしおこなわざるをえないのは、それだけロシアやウクライナと地理的に近いからである。GDP比で2%近い支援額だとすれば、日本では10兆円を超える支援ということになり、その大きさがよく分かる。これを続けるのが容易ではないことも明らかだろう。ちなみに、米国の支援額は、一国による絶対額としては他国を圧倒するものの、GDP比では0・3%にとどまる。

 もっとも、国内政治における論点化にあたっては、実際の数字以上に世論におけるイメージが大きな力を持つことも否定できない。その意味で数字がすべてとはいえないものの、議論にあたってはまず数字を把握することが不可欠の第一歩になる。

支援の先細りを促す四つの要素

今後各国によるウクライナ支援が先細りするとすれば、それには四つの要因が存在する。



(続きは『中央公論』2024年1月号で)

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鶴岡路人(慶應義塾大学准教授)
〔つるおかみちと〕
1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学大学院などを経て英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得。専門は現代欧州政治、国際安全保障。在ベルギー日本大使館専門調査員、防衛研究所主任研究官、英王立防衛安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。著書に『EU離脱』『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』がある。
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