永田町は大阪・橋下の揺さぶりに耐えられるか

橋本五郎(読売新聞特別編集委員)×後藤謙次(ジャーナリスト)×長谷川幸洋(東京新聞論説副主幹)

後藤 「増税はマニフェストに書いてない」とか、変な手続き論に行ってますからね。

長谷川 ずばり言えば、政策の旗を鮮明に掲げられない自民党はとっくに終わっている感じがします。

後藤 ただ、党内がねじれているのは民主党も同じことで、衆参ねじれと党内ねじれが「同居」しているのが、この間の日本政治なんですね。本当なら、次の選挙でそれらをダブルで解消する必要があるのですが、現状ではその展望は見えてきません。

橋本 民主党も問題ありです。最悪なのは、はっきり言って議員が自分のことばかり考えているところです。政権与党なのだから、その責任をみんなが共有しなければいけないのに、自らの利益を優先する姿勢が露骨すぎる。ある首長出身の議員が言っていたのですが、「民主党議員の一番の問題は人間に対する関心がまったくない」のだと(笑)。「議員に就職した」という感覚なんでしょうね。

後藤 いきなり名簿に名前が載った人には、「愛社精神」も醸成されてない。

長谷川 議員バッジを着けることが最優先になっている人が多い。それで「またバッジを着けるためには、どうするのが得策か」という発想になります。そういう人たちが「箱」を捨てることによって民主党が分裂するのは、意外に早いのかもしれません。

橋本 ちなみに、そうやって政局含みになると、またぞろ「小沢一郎」の名前が取り沙汰されるようになるんですね。姿が見えないなら見えないなりに、何か考えているはずだと憶測が飛ぶ。ただ私は、そんなことばかり考えていると、本筋を見誤ると思うのですよ。

後藤 小沢さんの言動から推し量ると、「何かをしたい」ではなく「何をしてほしくない」か、すなわちとにかく解散回避がプライオリティの圧倒的な第一位であるように思えますね。もし今年中に解散となると、党員資格停止処分中かつ刑事被告人として総選挙を迎えざるをえなくなります。それは政治生命の終焉を意味します。とにかく解散を先送りして、どこかで総理の首を挿げ替えて地合いを変えたいという程度のことは、考えているのかもしれません。

橋本 小沢さんが師と仰ぐ田中角栄さんは、ロッキード事件の時、一審判決前に解散させようとした。結果、自身は大量得票しました。後藤さんの見立てが正しいとすると、あらためて政治家としての違いを実感せざるをえないですね。

大阪「橋下改革」は政界再編の起爆剤となるか

長谷川 今、与野党に突きつけられている大きな政治課題は、お話ししてきたようにTPPと消費税。ただ私は、地方自治法改正問題が「第三の課題」としてクローズアップされてきたと思うのです。今度の通常国会では、みんなの党が橋下徹大阪市長と連携して改正案を出してきます。そうなれば、実は民主も自民も他の政党も、「大阪都構想」に賛成なのか反対なのか「踏み絵」を踏まされることになる。しかし、この問題についても、どう決断するのか各党の議論はまだ聞こえてこないですね。

橋本 橋下市長があれだけの共感を呼んだのは、どう考えても非効率であるにもかかわらず温存されてきた、府と市の二重行政を「おかしい」と確信を持って訴えたからだと思うのです。個人的にはなんで「都」にするのか、東京とは違う大阪らしい形にすればいいではないかと思うのだけど、いずれにせよ二重行政がさまざまな問題を孕んでいるのは事実です。民主も自民も、あの大阪の選挙で示された世論には、真摯に耳を傾けるべきですよ。

長谷川 それから、「大阪都構想」ばかりが注目されていますが、私が革命的だと思うのは、職員基本条例案なんです。たとえば大阪市には七二の外郭団体がありますが、ここには公務員の天下りをさせない。怪しいと思ったら「市長が天下り人事を認めない」とも書いてあるのです。大阪市と堺市の市議会では否決されましたが、府議会は(大阪)維新の会が過半数を取っていますから、通るでしょう。大阪ローカルの話ですが、中央の国家公務員制度改革などに影響を与えることは十分ありうる。橋下さんの動きは、永田町を揺るがす時限爆弾のような位置づけになってくるかもしれません。

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