永田町は大阪・橋下の揺さぶりに耐えられるか

橋本五郎(読売新聞特別編集委員)×後藤謙次(ジャーナリスト)×長谷川幸洋(東京新聞論説副主幹)

後藤 今、いろんな意味で一番の政治家は橋下徹かなと感じます。かつて亀井静香さんが「千手観音」と称されましたけど、橋下さんくらいいろんな手を出してる政治家は見当たらない。たとえば小沢さんたちが消費税増税反対を切り口にアプローチしたら、ぜんぜん違う「地方自治のあり方」というボールを投げる。あたかも、そうやすやすとそちらの戦略には乗らないよという態度を示しながら、一方では味方を増やしていくんですね。なかなかの手だれだと思いますよ。

長谷川 小沢さんは「改革には賛成だ」と、盛んに秋波を送っていますけどね。

後藤 小沢さんの地方自治は、三〇〇の基礎自治体を基本にした国づくりですから、橋下構想とは根本的に違います。

長谷川 橋下さんは道州制を志向しているようにも見えますね。

橋本 考え方が一番近いのは、みんなの党です。橋下さんの選挙も全面的に応援した。でも、彼がみんなの党と心中する気は、おそらくないでしょう。これから民主も自民も、維新の会に対する対応が変わってくるはず。実際大阪に対しては、双方とも地下で相当、接触を図っている。

長谷川 維新の会とみんなの党は、堺屋太一さんとか古賀茂明さんとか、ブレーンがかぶってますからね。でも、橋下さんはなかなかの政治家だから、政策がいっしょだからといって、直ちにみんなの党と行動を共にするということにはならないかもしれない。

橋本 橋下さんが当選した時、渡辺喜美さんを万歳した「輪」の中に入れませんでした。全面支援した一党の党首をあえて遮断するのだから、相当な考えがあってのこと。彼のターゲットは、みんなの党ではなくて、民主であり自民なんですよ。そのあたりは、実にしたたかです。

長谷川 ただ、両党ともさきほどから話に出ているように、基本政策が見事に党内でねじれている。僕は、橋下をにらんでねじれがさらにひどくなる、はっきり言うと分裂する方向に進んでいくのではないかと思います。

後藤 まさに「時限爆弾」。この間、郵政選挙と政権交代選挙という二度の「○×選挙」が、国政でありました。今度は大阪というローカルな「○×選挙」だったのですが、それが国政レベルで、もう一回実現するところまでくるのかということですね。

橋本 彼がこれだけ力を持ちえたというのは、確信を持って何かをやろうという姿勢が、国政に見られないことの裏返しだと思うのです。あえて知事の座を捨て、市長になってまでやろうとした覚悟が、「独裁だ」といった批判を寄せつけなかった。くどいようだけど、中央の政治家はそこをもう一度、まじめに問い直してもらいたいね。

「解散危機」は三、六、九月

後藤 そもそも、日本は今年相次ぐ世界のトップ交代に先んじて安定してよかったというのが、野田政権発足時の評価だったはず。このままいくと安定どころか、内外の荒波に翻弄されそうですね。

橋本 そうした環境下で、さて解散・総選挙はあるのか、あるとしたらいつなのかというのが、一二年の大テーマ。ヤマと目されるのが、三月、六月、九月です。
 まず、国会での予算審議。一般財源を裏打ちする特例公債法案について、自民党が真っ向から対決姿勢を示し、参院で否決される可能性がある。昨年はまだ震災復興に向けた協力という背景がありましたが、選挙を意識せざるをえない今年は、ガチンコでくるでしょう。これが「三月危機」。

長谷川 参院で否決されたら、例によって六〇日後に衆院再可決を目指すことになります。ただし、再可決には三分の二の賛成が必要。民主党内の反乱分子が何ごとかを仕掛けてくるかもしれない。五月にも危機があります。

橋本 それを乗り切ったとしても、六月には国会の会期末を迎えます。この段階で消費税増税法案の成立にめどが立たなくなった場合には、政局は一気に流動化するでしょう。そして、九月には民主党代表選、自民党総裁選を控えます。民主党の代表に野田さんがすんなり再選されるとは思えない。そうすると、「総選挙を経ずに四人目」となりますから、さすがにもたない。

後藤 私は、やはり代表選がポイントなのではないかと思います。政権発足当初は、そこは野田さんの「無投票再選」だろうと目されていたのが、まったくそういう状況ではなくなってしまいました。おっしゃるように、代表でいられなくなる可能性が高い。

長谷川 そうですね。

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