永田町は大阪・橋下の揺さぶりに耐えられるか

橋本五郎(読売新聞特別編集委員)×後藤謙次(ジャーナリスト)×長谷川幸洋(東京新聞論説副主幹)

後藤 つまり自らが解散したいのなら、代表選前ということになります。最近では、〇三年の小泉内閣が同じようなケースだったのですが、あの時は小泉さんが圧倒的に強かったから、総裁選をやってから解散に踏み切りました。中曽根さん、宮沢さんを非公認にして、中曽根さんに「政治的テロ」と言わしめた総選挙です。

長谷川 私は、やはり「前」だと思います。九月代表選に勝負をかけるほど強くはないですよ。あえて可能性として、野田さんを途中で降ろして、「四人目」を選ぶというのはどうでしょう。

後藤 野田さんがあまりにダメだとなったら、そういう動きが出てくるかもしれません。でも今のところ小沢さんは仕掛けられないし、野党時代に麻生さんを「三人目」であれだけ批判したのだから、苦しいですね。

橋本 「降ろし批判」も出てくると思うのですよ。世界が新しい指導者を選んでスタートを切ろうとしているのに、また小さな政争にうつつをぬかすのかという。問題は、野田さんに、そこにもっていけるだけの戦略があるかということです。

橋下と連携した「みんな」はどこと組むか

長谷川 四人目の総理は批判に耐えられないから、野田さんで勝負。しかし、支持率は極めて低い。結局、「やぶれかぶれ解散」のような形になりそうですが、当然、民主は惨敗の可能性が高い。過半数も取れないでしょう。他方、自民も過半数には届かない。

後藤 そう思いますね。

長谷川 だとすると、「第三極」がキャスティングボートを握ることになります。みんなの党と公明党が、総選挙後の政局における台風の目となりそうです。とりわけ維新の会と連携したみんなの党が、橋下人気を追い風に相当議席を伸ばし、国会内での影響力を強める可能性が高いと思います。
 では、みんなの党は民主と組むのか、自民と組むのか。現状では何とも言えませんが、民主と組むのは考えにくいように思います。そうなると自民ということになりますが、党として連携するためには、さきほども言ったようにTPP、消費税、地方自治で方針を旗幟鮮明にしなければなりません。ちなみに、みんなの党はTPP参加、消費税増税反対、地方自治法改正賛成です。

後藤 名前は言えないのですが、自民党のさる大物が、次の選挙ではみんなの党から出ると、かなり確信的に話していました。私も、みんなの党と自民の間には、すでにいろんな意味での地下水脈が通じつつあると感じます。

長谷川 同じ人かどうかわかりませんが、私もそれを真剣に考えているという人に話を聞きました。

後藤 ただ、あえてみんなの党自身について言わせてもらえば、まだ「民主もダメだし自民も嫌だ」という、消去法で票を集めている段階ですよね。

長谷川 基本的には都市型政党なんですけど、強いのは栃木と神奈川と東京の一部くらい。

橋本 個々の政策に対する態度は明確なんだけど、洋品店のような「単品主義」なんですね。政権を担うというのは、また次元の違う問題です。

長谷川 いずれにせよ議員が国民のことよりも、まず「バッジ」に走るような事態はなんとかしなければ。最大の問題は、さきほど後藤さんも指摘された「党内ねじれ」にあると思っています。国民が政策で選ぼうと思っても、党内に賛成もいれば反対もいるのでは、話にならない。現状では、投票する側がはたして自分の一票に込めた意思が永田町で生きているのかいないのか、よくわからないわけです。選挙前に政党として何をやるのかをはっきりさせてもらいたい。それができないなら、政策本位で分裂してもらいたいですね。

橋本 日本全体が、政権交代でかけがえのない経験をしたと思うのです。やはり一人ひとりが国のあり方をきちんと考えなければいけない。相当高い授業料を払ったけれど、これを生かす必要があります。そのためにも、政党は将来を担えるリーダーの育成を、真剣に考えないと。本来それをやるべき長老が、いまだに跋扈しているような状況ではダメなんです。

後藤 同感です。日本全体を考えても、このままでは老衰に陥ってしまう。若い人たちがきちんと働ける国づくりのためにも、政治の場で若い人材を育てるのが急務だと思います。
 金正日の死去で朝鮮半島情勢は全く不透明になりました。政府高官は喪明け後の波乱があるとみています。日本も新しい国づくりに向けて、解散・総選挙でリスタートの年にしたいものです。

(了)

〔『中央公論』20122月号より〕

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