高まる沖縄の独立熱

佐藤優の新・帝国主義の時代
佐藤優

 実行委では、首相への要請行動に加えて要請団による首相官邸、国会議事堂前での座り込みや、東京県人会などとも連携した5千人規模の抗議集会の開催を検討する考えも提起された。

 玉城義和事務局長は、「東京要請行動では、県内全41市町村長の連名で建白書を作り、沖縄の意思として首相に直訴する。(オスプレイ配備反対は)譲れないとあらためて国民に示す運動につなげたい」と意義を強調した。

 同実行委員会は年内まで活動を継続して、年明けに新たな組織づくりを模索することが提案された。活動の後退を懸念して、委員からは存続を望む意見が上がった。玉城事務局長は、9・9県民大会成功という当初の目的は達成されたとした上で、「配備撤回を求める闘いは長期的になる。新たな超党派の枠組みを模索してつくり直し、新しい事態に対応したい」と説得。県議会の各派代表者らでつくる常任幹事会に一任することを確認した。

 実行委代表による訪米抗議行動は引き続き検討する。〉(十月二十六日付『琉球新報』)
 十二月中旬の野田首相への異議申し立てには、沖縄の全四一市町村長、全市町村議会議長、全県会議員が参加することになろう。民主的手続きによって選出された、沖縄の政治エリートが一丸となって中央政府に異議申し立てを直接行うという動きはかつてなかった。当事者がどれだけ認識しているかは別にして、集団強姦致傷事件によって、沖縄人の自己意識が質的に変化したのである。

 この質的変化は、事件直後(事件発生は十月十六日未明だが、報道されたのは同日夕刻)、十月十七日時点での沖縄の政治エリートの反応を分析すればよくわかる。

〈喜納昌春県議会議長は、「基地がある故の被害で、戦後67年間、何百回も繰り返されてきた。事件事故を抜本的に解消するため、一日も早く沖縄から米軍基地をなくすべきだ」と述べ、在沖米軍基地の即時閉鎖・撤去を求めた。「県民の基本的人権が守られない差別的な状況だ。日米両政府は地位協定を抜本的に見直すべきだ」と糾弾した。/照屋義実県商工会連合会会長は「人権感覚を失った米軍の体質が如実に表れた。オスプレイの強行配備で騒然とする中、このような凶悪事件が発生するのは絶対に許せない」と批判。「度重なる事件事故の源流には、沖縄を差別する日米地位協定の問題がある」と指摘し、「繰り返される事件が運用改善では不十分だと証明している。地位協定は抜本改定すべきだ」と両政府に対応を求めた。〉(十月十八日付『琉球新報』)。

 照屋会長は日米安保体制を認める保守陣営に属する沖縄のエリートで、喜納議長は保革を超えた沖縄県民党的立場を表明している。このような沖縄の反発を東京の中央政府は正確に理解していない。

沖縄県民の感情を逆撫でした中央政府

 首相官邸、外務省、防衛省などの中央政府の沖縄への視座は、ソ連共産党中央委員会のバルト三国に対するそれと類比的だ。事件翌日の十月十七日、沖縄県の仲井真弘多知事が、首相官邸、外務省、防衛省を訪れて抗議した。このときの森本敏防衛相は、沖縄県民の感情を逆撫でする対応をした。

〈「米軍に綱紀粛正という生易しい言葉ではない厳しい対応を」と、事件に対する県民の憤りをぶつける知事の言葉に、硬い表情で耳を傾ける森本氏。しかし、開いた口からは「米兵でも真面目に仕事をしている人も多い」「たまたま外から出張してきた米兵が起こす」と言い訳とも取れる言葉が並んだ。〉(前掲、『琉球新報』)と報じた。

 この時点から、森本防衛相は、沖縄に対する差別的政策を人格的に体現している人物と沖縄人によって受け止められるようになった。平たい言葉で言い換えると、沖縄の森本氏に対する目つきがきわめて悪くなったのだ。森本氏の発言が沖縄では直ちに政治問題になることを首相官邸を含む東京の政治エリート(国会議員、官僚)は認識していない。森本氏は、今回の集団強姦致傷事件について繰り返し「事故」であるという認識を示している。この森本発言に対して沖縄の世論は激昂している。十月二十二日付『琉球新報』は、社説で、森本氏を厳しく弾劾した。現下の沖縄と中央政府の温度差を知るための格好のテキストなので全文を引用しておく。

〈防衛相「事故」発言 人権感覚を欠く妄言
 米海軍兵による集団女性暴行致傷事件を森本敏防衛相が繰り返し「事故」と表現している。これが国民を守るべき立場の閣僚の人権感覚か。妄言のそしりを免れない。

 通りすがりの女性を路上で暴行した行為は容疑通りなら、凶悪犯罪だ。蛮行を「事故」と矮小化し表現することで被害女性をさらに傷つけ、苦しめてしまうとの想像力は働かないのか。女性全体を侮辱する発言でもあり断じて許せない。

 いま国がやるべきことは、米軍に対して毅然とした態度で被害女性に対する謝罪や賠償、ケアを求めることであり、実効性ある再発防止策を打ち出させることだ。事件の重大性を薄めて国民の印象を操作することは、加害者側をかばうような行為であり言語道断だ。

 森本防衛相は、記者団から事件の受け止め方を聞かれ、「非常に深刻で重大な『事故』だ」と発言した。二度、三度繰り返しており、吉良州司外務副大臣も同様に使っている。米軍基地内外で相次ぐ性犯罪を米政府は深刻に受け止めている。これに比べ日本側の対応は浅はかとしか言いようがない。

 防衛相は、仲井真弘多知事の抗議に対し「たまたま外から出張してきた米兵が起こす」と発言した。

 しかし、在沖米軍の大半を占める海兵隊は6カ月ごとに入れ替わる。移動は常態化しており、「たまたま外から出張してきた」との説明は言い訳にすぎない。そのような理屈が成り立つなら「ローテーションで移動してきたばかりで沖縄の事情を知らない兵士がたまたま事故を起こした」といくらでも正当化できよう。防衛相は詭弁を弄するのではなく、無責任な発言を直ちに撤回すべきだ。

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