新・自民党研究

参院選大勝で党内抗争勃発か?
星浩(朝日新聞特別編集委員)×橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

参院選勝利で油断すれば党内の"三〇〇祭り"が始まる

橋本 スタートして半年が経った自民党安倍内閣は、その徹底した官邸主導ぶりが際立っています。しかもデフレ打開は断固としてやり切るという姿勢を貫いたかと思えば、例えば憲法第九十六条の改正問題は風を読みつつ姿勢を柔軟に変えるなど、けっこうメリハリをつけた政権運営をやり、党はほとんどその後をついていくという構図になっている。

 自民党は三年半の民主党政権を見ていて、内輪もめを繰り返すとどうなるかをしっかり学習したんですね。だからとにかく総理・総裁を支えていこう、官邸の方針に従おう、ということでここまで来た。最も象徴的だったのがTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉参加問題への対応で、農業について一応みんな言いたいことを言い、しかし最後は安倍総理の言うことに従う、という形で矛を収めました。自民党ならではのソフトランディングで、民主党と違って大人だな、と印象づけることに成功しました。憲法九十六条の改正問題にしても、昔の安倍さんだったら突っ走っていたかもしれません。安倍さん自身も学習効果は発揮されている。

橋本 ただ今度の参議院選が終わったらどうなるか。選挙自体、おそらく与党・自民党の勝利は動かないでしょう。しかし「勝ったら仲間割れする」というのも、これまでの歴史が教えるところです。安倍さんは参院選に勝利すれば思い通りにやりたいことができる、と考えているかもしれないけれど、そう単純な話ではありません。むしろ私は、政権運営が難しくなることを覚悟すべきだと思うんですね。

 総選挙で圧勝した安倍内閣の当面する最大の課題は、次なる参院選に勝利することでした。安倍さん自身、「衆参で過半数を取って、政権交代が完結する」と明言してきた。だからみんなが、それまではいろんな問題を封印しているわけですね。自公が勝って衆参のねじれが解消し、いろんなことがやりやすくなると思いきや、選挙までは顕在化しなかった党内の不満が噴出する可能性は、かなりあると思います。

橋本 藤波孝生元官房長官が、中曽根内閣が衆院でちょうど三〇〇議席を獲得した選挙の後、「今に"三〇〇祭り"が始まるぞ」と予言しました。

 「死んだふり解散」による、一九八六年の衆参ダブル選挙ですね。

橋本 みんな選挙に勝ってほっとして、勝手に踊り出す。安心して党内闘争を始めるわけです(笑)。事実あの時は、藤尾正行文部相が、就任早々歴史教科書問題(日韓併合発言)で、自発的な辞任を求めた中曽根さんに反旗を翻して罷免されるという「事件」も起きました。

 満を持して売上税を提起しても、総スカンを食らった。政権末期で、自民党議員の視線が"ポスト中曽根"に向いていたという事情が大きかったのですが、衆院で三〇〇議席持ちながら、全く国会が動かないという奇妙なことになってしまいました。今回も、安倍自民党が参院選に勝って「政権交代」が完結したとたんに、そんな状況にならないという保証はありませんよね。

橋本 佐藤栄作内閣なんかもそうでした。本来、勝って兜の緒を締めろなんだけど、それがなかなか難しい。どうしても緩んでしまう。緊張感をなくして、野党にも礼儀正しくなくなるのです。政権は必ず内部から崩壊するという事実を、安倍さんは選挙に勝ったら、今一度銘記すべきです。

安倍─石破の対立が火種となるか

 ここまでスムーズな政権運営を行ってきた安倍政権ですが、一つ火種になるかもしれないと目されていたのが石破茂幹事長の存在です。

橋本 私は「石破問題」が自民党の「仲間割れ」を誘発する可能性は、十分あるんじゃないかと思っています。これは安倍政権のある意味特異な政権構造にも絡むのですが、自民党総裁選の予備選挙で勝ったのは石破さんでした。ここが例えば小泉政権との違いで、地方と国会議員レベルの意識の違いが如実に表れて、そのねじれの上に成立した内閣なのです。言い方を換えれば、地方には安倍政権に対する不満がくすぶっているとみるべきです。

 そうですね。

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