新・自民党研究

参院選大勝で党内抗争勃発か?
星浩(朝日新聞特別編集委員)×橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

林、岸田を核としたリベラル路線の結集はあるか

 ただ自民党の一方の極にいる安倍さんが総理になったということで、リベラルな勢力の結集を模索するような動きも、党内に見え始めてはいます。この前、政界を引退した古賀誠さんが中心となって、大平正芳さんの思想を学ぼうという勉強会が、若手を集めて開かれました。こうした流れを背景に、林芳正農水相、岸田文雄外相(宏池会会長)などがリベラル路線をより明確に主張してくる可能性はあると思います。
 仮に、これにもともと宏池会と盟友関係の田中派の流れをくむ額賀福志郎さんのグループが合流すれば、それなりに存在感を示すことになるのではないでしょうか。両者は政策的にも近い。中国とうまくやっていこうという外交路線や、どちらかというとケインジアン的な財政・金融政策は、安倍さんの政策と対抗できるものになるはずです。例えばそうした勢力が、少しずつではありますが形成されつつある雰囲気は感じるのです。

橋本 いずれにしても、今名前の出た林さん、石破さん、石原伸晃さんあたりの、自民党の"次"を狙う人たちには、十分その立場を自覚して仕事をしてほしいですね。
 林農水相はTPPで板挟みのきつい立場なんだけど、逆にいえば自らの存在感を高めるチャンスでもある。現状で、その役割を果たし切れているか。茂木敏充経産相などもしかりです。

 中堅幹部クラスの底上げは急務だと思いますね。

橋本 昔は激しい派閥の権力闘争があって、敗れるともちろん与党の中ではありますが、一族郎党野に下り、主な役職から干されたわけです。そうなったら二年後の総裁選での捲土重来を期して地方回りをやる。あえて現政権と真っ向から対立する政策を掲げて、その間は冷や飯を食ったのですよ。それが自民党の活力でもあった。ところが今やすっかり緊張感がなくなった。「冷や飯」もレンジでチンして温め、おいしく食べることができるようになってしまった。「冷や飯」は死語になってしまったのです。(笑)
 典型がこの前の総裁選に立った石原伸晃さんです。現職総裁の谷垣さんが立候補を表明しているのに、幹事長の自分が出た。そういう場合は必ず職を辞し、谷垣さんではなぜだめなのかを明確に意思表示してから立つというのが自民党内の常識でした。そういう節度が必要でしたね。

人材を育てるのは首相の仕事

 派閥の話が出ましたが、公認権とカネが奪われた結果、自民党の屋台骨を支えてきた旧来型の派閥は、文字通り雲散霧消しましたね。それ自体は、ある意味、小選挙区制導入の意図したところで評価できるのだけれども、昔の派閥にはそういう「利益集団」的な側面とともに、政策集団としての機能もありました。同じ自民党でもコンサバティブからリベラルまでいろいろいる。それを派閥が集団としてまとめ、代弁していたわけです。ところがその機能まで丸ごと喪失してしまいました。

橋本 政権交代で野党に転落して、命脈尽きたという感じです。

 それまでも自民党には何度かピンチがあったのだけど、派閥の力でけっこう土俵際で踏ん張ったんですね。例えば安保の岸から経済の池田、金権田中からクリーン三木、森喜朗でついにだめかと思われた時には、永田町から一番「遠い」小泉さんを引っ張り出して、危機から脱しました。もし安倍さんが行き過ぎて失敗したら、次は誰なんだろうと考えると、心許ない。

橋本 「振り子の原理」が働いていましたね。派閥にはもう一つ、人を育てるという大事な役割がありました。派閥の親分になることがそのまま総理・総裁を目指す鍛錬の場になっていた。

 一次試験のようなものですね。

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