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新・自民党研究

参院選大勝で党内抗争勃発か?
星浩(朝日新聞特別編集委員)×橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

橋本 そうです。誰もが派閥のトップになれるわけではない。まずお金集めができないとだめです。誰も将来性のない人間にカネを出そうとはしませんから、そこでふるいにかけられる。もちろん総理になろうとしているのですから、政策に精通している必要があります。そこはちゃんと派閥がフォローする。研修会をやり勉強会を開いて、派閥ごとに政策を立案していく。そして最後は人徳です。政策通でカネ集めに長けていても、人間がよろしくないと、みんながついていかない。そうやって鍛錬を重ね、国の指導者としての資質を身につけていったのです。
 じゃあ今はどうやって国のトップが選ばれるかといえば、ここしばらくモノサシになってきたのが世論調査です。人気があれば選挙に勝てるだろう、という発想です。小泉さんの後は、支持率トップの安倍さんが第一次内閣をつくった。それを継いだ福田康夫さんも、麻生太郎さんの倍の支持を集めていました。次の麻生さんも同じです。

 ところが世論は移ろいやすい。

橋本 わずか数ヵ月で、何十%もの支持率が泡のように消えてしまうわけですね。そうやってころころ総理が交代することによって、どれだけ国益が損なわれてきたか分かりません。そろそろリーダーをどう育成するかということを、真剣に考える必要があります。
 自民党の場合、昔の派閥を復活させるというのは現実的ではないでしょう。そうなると、今のトップ、すなわち総理大臣が育てるのが最も手っ取り早くて確実ではないか、と私は思います。

 なるほど。

橋本 中曽根さんが"安(安倍晋太郎)、竹(竹下登)、宮(宮澤喜一)"を「後継指名」して競わせたような戦略的な人材育成を、安倍さんには期待したいですね。そのためには三〜四年は総理をやってもらう必要がありますが。

 これはと思う人間を要職に就かせて、鍛えるわけですね。

橋本 そうです。林さんを農水相に指名したというのは、一つの布石だと私は理解しています。ただ、まだ厳しさが足りないと思いますね。しょっちゅう呼んで注文して、切羽詰まった気持ちにさせないといけませんね。

 かつての派閥には、その手の厳しさがあったんですね。

橋本 いずれにせよ、自民党には派閥の消滅で失われた、人を育てる機能をどこが担うべきなのか、という問題意識を持ってもらいたい。

 極めて大事な視点だと思います。
 繰り返しになりますが、参院選後の安倍内閣の政権運営は、決して順風満帆とはいかない可能性が高いと思います。「負けた」野党は危機感を強めるでしょうから、野党の再編が起こり、結集を強める方向にいくのではないでしょうか。
 当初、憲法改正問題などでタッグが組めると踏んでいた日本維新の会が、橋下徹代表の発言で急失速したのも、安倍さんにとっては誤算でした。引き続き公明党の位置づけを高く保ったまま、国会審議に臨むことになる公算大です。消費税率引き上げ、社会保障費の削減、あるいは憲法改正や集団的自衛権の解釈変更といった問題に対して慎重な姿勢を持っている公明党をどう取り込み、妥協を図っていくのかも、大きなポイントになるでしょう。

橋本 中曽根さんが新聞のインタビューに答えて、参院選で経済問題ばかりを取り上げるのは、本格政権を目指す上で弱い、と言っていました。確かにその通りで、安倍さんにはそろそろ、例えば大きな外交戦略のようなビジョンを示してほしいですね。
 前回の第一次安倍内閣の時、前任の小泉さんが六回靖国参拝を行ったために、日中関係が冷え切り、首脳会談も開けない状態にありました。しかし半年ほど粘り強い努力を続け、「靖国に行かない」という言質を取られることなく、首脳会談にこぎつけた。見事な外交成果だったわけですよ。そうした実績も思い出して、中国とも真剣に向き合い、それを包み込むような外交を、選挙後にはぜひ見せてもらいたいと思います。

構成=南山武志

〔『中央公論』20138月号より〕

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