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国家の危機を好機に変えたデジタル先進国

DX後進国・日本に「電子政府」は実現するのか(第1回)
中野哲也(リコー経済社会研究所研究主幹、日本危機管理学会理事長)

ソウル駅(写真提供:写真AC).jpgソウル駅(写真提供:写真AC)

日本から学んだ韓国が20年で...

電子政府ランキング2位の韓国も、エストニアと同じく危機を好機に変えてデジタル先進国に仲間入りした。その電子政府の歴史の起点は1962年にさかのぼる。

前年の軍事クーデターで国家再建最高会議議長に就いた朴正煕(パク・チョンヒ)氏が、国民の居住情報を確認する目的で「住民登録番号制度」を導入したのだ。北朝鮮との戦時下、その目的は韓国内に潜伏するスパイの摘発とも指摘される。

電子政府への取り組みを本格化させた「事件」は、1997年の経済危機である。1998年に発足した金大中(キム・デジュン)政権が、経済再建の一環としてIT 産業の育成に注力したのだ。

日韓両国の電子政府の事情に詳しい、e-Corporation.JP(本社東京都中央区)の廉宗淳(ヨム・ジョンスン)社長に話を聞くと、当時はIT先進国だった日本に学ぶため、韓国が2000年頃に視察団を派遣した。その際、「政府と地方自治体が共同利用できるものは共同で開発する」ことの重要性を学んだという。

ところが、これには「言葉の壁」が悪戯(いたずら)を働いていた。韓国視察団とのやり取りの中で、日本側は図書館システムなどごく一部で政府・自治体が共同開発を進めていると説明したつもりだった。

しかし、韓国側は広範囲にわたり両者の共同開発が進んでいると誤解したのだという。

その結果、韓国政府は自治体向けシステムの一括開発に舵を切り、行政デジタル化を加速させたのである。経済危機と誤解が電子政府化の起爆剤になったわけだ。

当時の韓国は各自治体が独自にシステム開発に取り組んでおり、当然その仕様はバラバラ。このため業務フローも自治体ごとに異なり、互換性を欠いていた。

そこで韓国政府は2001年に電子政府法を施行。行政事務の標準化に乗り出し、システムの重複開発を原則禁止にする。2003年に全国共通のシステム開発を主導する自治情報化組合を創設。2008年には名称を地域情報開発院(KLID)に変更、特殊法人にした。

自治体のシステム総コスト 韓国は日本の6分の1

日本の内閣官房のレポート(2016年)によると、KLIDは住民登録、税制、人事など31分野に及ぶ自治体業務について共通システムを構築した上で、全国の自治体に無償提供した。その結果、各自治体は独自にシステム開発・更新予算を組む必要がなくなり、財政コストを大幅に削減できた。

日本の一般財団法人・自治体国際化協会の試算(2010年時点)によれば、自治体行政の基幹システムの総コストは日本が年間3632億円。一方、韓国は人口が日本の半分以下とはいえ、わずか83億円にとどまる。1自治体当たりで計算しても、日本の1.97億円に対し、韓国は6分の1の0.33億円に過ぎない。

国家存続の経済危機に陥り、日本から必死に学んだ韓国は行政デジタル化を着実に推進し、20年余で世界2位の電子政府大国にのし上がる。その間に足踏みを続けた日本はIT先進国から脱落、いつの間にか「周回遅れ」になっていた。

中野哲也(リコー経済社会研究所研究主幹、日本危機管理学会理事長)
〔なかのてつや〕
リコー経済社会研究所研究主幹 日本危機管理学会理事長。1962年東京都生まれ、1985年慶應義塾大学経済学部卒。時事通信社経済部、政治部記者、ワシントン特派員、大阪証券取引所主任調査役などを経て現職。
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