飯田泰之 円高待望論が招く危機

飯田泰之(明治大学教授)
写真提供:photo AC
「あたかも円安が現在の経済問題の大きな原因であるかのような錯覚がもたらされている」。しかし、目先の大きな国際情勢の変化に釣られるとウクライナ危機以上のリスクが生じかねないと、飯田泰之・明治大学教授は警鐘を鳴らす。
(『中央公論』2022年6月号より抜粋)

政治・社会・安全保障の変化と世界経済への影響

 ロシアによるウクライナへの侵略によって、今後日本が直面する最大の経済的リスクは何か。それはエネルギー価格の高騰でも、インフレでもない。あまりにも大きな国際情勢の変化に目を奪われて、経済政策の意思決定が歪むことである。

 ニュースでは連日、瓦解した街、数えきれない犠牲者、そしてロシア軍の蛮行が報じられている。ウクライナの人口は約4200万人(ロシアは約1億4700万人)。1人当たりGDPこそ3700ドルほど(ロシアは約1万ドル)と決して豊かとはいえないが、ヨーロッパの一角に位置する近代国家が全面的な侵略の波に襲われたことは、世界の政治・社会・安全保障への姿勢に大幅かつ不可逆的な変化をもたらすであろう。

 これらの変化に比してではあるが、世界経済への影響はそこまで大きいものではない。この相対的なインパクトの差異を見誤ってはならない。政治・社会・安全保障の変化に目を奪われて、いわばパニック的に非合理的な経済政策がとられたならば、それはウクライナ危機以上の影を、日本経済に落とすことになるだろう。

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