待鳥聡史×善教将大 大阪どまりか、全国進出か 問われる政策・組織・党の顔

待鳥聡史(京都大学教授)×善教将大(関西学院大学教授)
善教将大氏(左)×待鳥聡史氏(右) 撮影:読売新聞大阪本社
 日本維新の会の伸張の背景には何があるのか。そして、今後の党勢のゆくえは。政党政治に詳しい京都大学の待鳥聡史教授と、『維新支持の分析』でサントリー学芸賞を受賞した関西学院大学の善教将大教授が論じあう。
(『中央公論』2023年8月号より抜粋)

「大阪の政党」を超えつつある

──昨年の参院選や今年の統一地方選で日本維新の会が伸張しました。一方で、自民党は衆院和歌山1区補欠選挙や奈良県知事選で敗れ、立憲民主党をはじめとする野党も党勢の停滞が続いています。現在の政治状況や維新伸張の理由をどのように分析しておられますか。

 

待鳥 今の政治状況を、自民党一党支配が続いたかつての「55年体制」に似た「ネオ55年体制」だとする論評を目にするようになりました。しかし、外形的には似て見えても、支持基盤の安定性などの点で、自民党は以前ほど強くはないと思います。2009年に民主党政権を誕生させた、自民党の外交安全保障政策には賛成でも、経済政策など内政に関して不満を持つ有権者は、依然として多く存在しているのでしょう。維新は、その人たちの票の受け皿になりつつあると思います。

 少し前までは、東京を中心に「維新なんて大阪でしか集票できないでしょ」と見下すような目線がありましたが、すでに大阪や関西圏を越えつつある印象です。

 

善教 私も基本的に同じ意見です。ただ、今回の統一地方選で維新が躍進したとの論調には懐疑的です。地方議員・首長が全国で目標の600人を超えたことが報じられましたが、22年参院選の比例票数などを踏まえれば、これは十分達成可能な目標だったのではないでしょうか。気になったのは、関東圏の選挙結果です。ここでは、少数の維新の候補者に票が集中しているケースもありました。候補者をもう少し擁立していれば、さらに議席を獲得できていたかもしれません。地方議員の総数を見ても、まだ立憲民主党の方が多い。維新の地方議員数はもともと少なく、それゆえに大きく伸びたように見える点には、注意する必要があります。

 維新に対する有権者の見方が大きく変化したのは、21年の衆院選の前後だと考えています。このとき、最大野党の立憲民主党は、共産党などと候補者を一本化しました。けれども、自民党に選挙区で勝ち切ることはできませんでした。一方、大阪の選挙区では、維新が自民党に軒並み勝利したわけです。この結果は、非常に大きなインパクトがありました。立憲民主党に対する期待が低下する中で、自民党に対抗しうる政党は維新なのでは、という見方が出てきて、それが徐々に波及しているのが現状だと思います。

 私が22年参院選後に調査した結果では、自民党支持層の中で、立憲民主党を代替的な選択肢と見ている人は1割程度しかいなかったのですが、維新は3割程度いました。今回の統一地方選の結果も、このような世論の変化の延長線上にあります。

 

待鳥 選挙に勝った政党の支持率がその後に上がるのは珍しくないですが、維新は特にそれが顕著なのでしょうか。

 

善教 21年衆院選後の変化はやや異質でした。政党に対する有権者の評価を測る指標に「感情温度」(高いほど好意的)があります。21年まで維新の感情温度は、平均値では35度前後を推移していました。ところが衆院選後に50度を超えたのです。このような急激な変化は珍しく、維新に対する見方が変わった可能性を感じました。私以外の研究者の調査でも、衆院選後の維新の感情温度は高かったようです。

 地域政党は、その地域の利益を代表することを主眼に置きます。党本部が大阪にあることは、「大阪」の政党であることの証左です。その意味で、党本部を東京に移すと支持の減退を招く恐れが、かつてはありました。しかし今は「大阪」の政党であることを強調しなくても、関西圏では勝てる状況です。

 

待鳥 ダウンタウンや明石家さんまみたいに東京進出に成功した大阪の芸人さんのような感じですね(笑)。あの人たちはずっと東京に住んでいるのに、今でも大阪に住んでいると思わせる雰囲気がある。

 

善教 そうですね。(笑)

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