待鳥聡史×善教将大 大阪どまりか、全国進出か 問われる政策・組織・党の顔

待鳥聡史(京都大学教授)×善教将大(関西学院大学教授)

政策を差異化できるか

善教 維新は国政で存在感を示すために、たとえば外交安全保障で、自民党より右に行く可能性も視野に入れているかもしれません。地方の議会で、維新が他党よりも保守的になる場合があることを示す研究もあります。しかしそのような戦略が、維新にとってよいかは分かりません。

 

待鳥 維新には外交安全保障でのオルタナティブが求められているのではありません。社会経済政策に関しても「無駄をなくす」と言っていますが、今はそれだけではアピールできない。「将来世代に投資しましょう。そのために無駄を減らしましょう」という議論を組み立てないと維新は伸びきらないと思います。無駄を省くだけでは政府を運営できないことは、みんなが薄々感じています。

 

善教 政党と有権者の関係は、政党がまず政策などの方向性を示し、それに有権者が呼応する、という関係で語られることが多いように思います。しかし、現状の国政での維新の場合、有権者の「何かやってくれるかも」という期待が先にあって、その上で維新が「さてどうしよう」と試行錯誤しているように見えます。「身を切る改革」以上の、政策の柱となる何かが、有権者から求められているのではないでしょうか。

 

待鳥 外交安全保障で自民党より右を狙いに行くのは悪手ですが、一方で社会経済政策で左に行っても手詰まり感があります。これは日本だけでなく、世界的に中道左派政党が苦戦していることと関係します。 

 20世紀末にイギリスの労働党やアメリカの民主党が、グローバル化に積極的に対応して得た原資を、国内の再分配に使う「第三の道」という考え方を打ち出しました。日本の民主党も方向性は似ていました。しかし、2008年のリーマンショック以降は反グローバリズムの風潮が高まり、今日では第三の道の路線はほぼ成立しなくなってしまった。

 そうすると、左派としては放漫財政覚悟でどんどん歳出を行うか、同性婚などリベラルな新しい価値の実現を重視するかの選択になる。ところが新型コロナ感染拡大という緊急事態を理由に、将来の財政のことを考えずに「とにかくどんどんお金を出そうぜ」というポジションは、1週間前から花見のためにシートを張って場所を確保している会社員みたいに、自民党がずっと陣取ってしまっている。(笑)

 そのため立憲民主党は、リベラルな新しい価値の実現に注力するしかなくなりましたが、新しい価値は多様なだけに多数派がつくりづらく、伸び悩む。その結果、自民党に対するオルタナティブとして残るのは、左派ではなく維新となる。維新としては、自民党の右か左かではなく、現在世代か将来世代かという構図をつくらないと厳しいと思います。

 

(続きは『中央公論』20238月号で)

 

構成:清永慶宏(読売新聞大阪本社社会部)

中央公論 2023年8月号
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待鳥聡史(京都大学教授)×善教将大(関西学院大学教授)
◆待鳥聡史〔まちどりさとし〕
1971年福岡県生まれ。京都大学法学部卒業後、同大学大学院法学研究科博士後期課程退学。博士(法学)。専門は比較政治論など。著書に『首相政治の制度分析』(サントリー学芸賞)、『代議制民主主義』など。

◆善教将大〔ぜんきょうまさひろ〕
1982年広島県生まれ。立命館大学政策科学部卒業後、同大学大学院政策科学研究科博士後期課程修了。博士(政策科学)。専門は政治行動論など。著書に『維新支持の分析』(サントリー学芸賞)、『大阪の選択』など。
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