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安全を根底から吹き飛ばした福島原発の爆風

桜井淳(技術評論家)

破局は目の前にあった

 三月十一日の震災で引き起こされた大津波によって、東京電力・福島第一原子力発電所の非常用ディーゼル発電機が機能を喪失したことを聞いたとき、稼働中であった一号機、二号機、三号機は炉心溶融をすると最初に思った。

 地震発生の際に、制御棒が正常に作動し、炉心の核分裂反応は緊急停止していた。しかし、軽水炉はそれだけでは安全にはならない。核分裂反応が止まった燃料棒の中では、それまでの反応で生じた核分裂生成物が放射線を出しながら崩壊を続けるが、その際、崩壊熱を発する。そのため、核分裂反応停止後も炉心の冷却を、崩壊現象が弱まるまで長期に続けなければならないのである。

 それが不可能になるということは、燃料棒が自らの発熱で高温になり、冷却水の蒸発、燃料棒被覆管の酸化および水蒸気との反応による水素発生、被覆管の破損、燃料の溶融と、事態が進んでいくことを意味する。これが炉心溶融である。最悪の場合、溶融した核燃料が容器の底にたまり、水蒸気爆発や再臨界を引き起こすことが想定される事態なのである。

 炉心だけではない。使用済み燃料貯蔵プールにも多くの核燃料が貯蔵されていて、これも常に冷却し続けなければならない。この使用済み核燃料は点検中の四〜六号機も合わせ六機すべてが抱えている。これもまた、炉心と同じ過程で溶融する危険性を持っている。

 冷却系のシステムは、通常は原子炉の外部から電力を引いてきて稼働させるが、これは地震と同時に止まった。問題は、バックアップとして原子炉一基につき二台用意されていた非常用ディーゼル発電機が、一台を除きすべてダウンしたことだ。こうなるともう冷却系に電力を送れない。一号機、二号機、三号機で炉心溶融が進行し、同時に、一号機から六号機までの使用済み燃料プールでも、同じように溶融現象が徐々に進むであろうと容易に推測できた。

 この段階で、最悪の場合、チェルノブイリ原発事故のように、炉心が損傷して、環境に大量の放射能が放出されるのではないかと思った。その可能性はあった。おそらく現実に炉心は大部分損傷しているであろう。それから、使用済み燃料貯蔵プールについても燃料棒はかなり損傷しているはずだ。経済産業省の原子力安全・保安院や、枝野幸男官房長官はかなり楽観的な記者会見をしていたが、これまで発表されている内容よりも、はるかに厳しい現象が起こっているはずだった。

 なぜそう判断するかというと、原子炉建屋の破壊度が尋常ではないからだ。原子炉建屋は、極めて堅牢につくられている。普通の商業ビルと違って壁が厚く、鉄筋コンクリートで五〇センチぐらいはある。非常に強固、頑丈なもので、外部から小型のミサイルを撃ち込まれても止められるぐらいの強度を持たせている。だから、めったなことでは側壁が全くきれいに吹き飛ばされるなどということは起きるはずがない。

 今回、一号機、三号機、四号機の建屋を吹き飛ばしたのは水素爆発だった。炉心あるいは使用済み燃料貯蔵プールにある燃料棒の被覆管に使われているジルカロイが水蒸気と反応すると、大量の水素が出る。その水素が建屋の最上階に集まり、酸素と一定割合で混合すると爆発する。破壊の程度で水素が発生した量を推測できる。小規模な炉心損傷で発生した水素の量なら、建屋内部で爆発する程度で収まるはずだ。

 周囲のあれだけ厚い壁を全部吹き飛ばす水素の量は、ざっと推定すると、炉心全体でジルカロイと水蒸気の反応が発生して、ほぼ炉心全体がぼろぼろになり、部分的に溶融するような現象が起こらないかぎりありえない。それでもなおかつ足りないと思う。使用済み燃料貯蔵プール内の燃料も、早期に炉心と同じような現象を起こして、大量の水素を出していた可能性が高い。原子力安全・保安院が記者会見で発表した程度ではなくて、実際にはもっと恐ろしい現象が二つ同時に進んでいたことが、一連の爆発から読み取れる。

 おそらく東京電力も原子力安全・保安院も、事態の進行は認識していたはずだ。私が何が起こるか理解していたくらいだから、現場の人間や技術陣が認識していて当たり前だ。彼らは、そのことを原子力安全・保安院にも報告していた。また、政府の危機管理を司る枝野官房長官にも伝えていたはずだ。

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