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渡辺佑基 鳥は飛びながら眠る――技術革新で明かされる動物の真の姿

渡辺佑基(国立極地研究所准教授)
天敵のいない南極のウェッデルアザラシはぐうたらしている(撮影:筆者)
 ナマケモノは怠け者ではなかった――? 動物に小型の記録計を取り付けて生態を調査する、バイオロギングという手法がある。本稿では、脳波を計測し睡眠パターンを記録することで判明した野生動物の自然な姿を、渡辺佑基・国立極地研究所准教授が論じる。
(『中央公論』2022年5月より抜粋)

 今朝、1時間ほど寝坊した。私は小学校低学年の頃から筋金入りの朝方人間で、夏休みのラジオ体操は当然のごとく皆勤で、大人になった今でも仕事に一番集中できるのは日の出の前後だ。けれども寒い時期はしばしば寝坊し、その分夜に仕事をするかといえばそんなことはなく、小学校低学年の頃から変わらない就寝時刻に布団に入る。それに加えて、コロナ禍中の在宅勤務では――職場にはばれていないはずだが――昼食後に少し午睡(ごすい)をとる。

 こんなふうに惰眠を貪っていられるのは、天敵のいない人間という生物の、しかも平和な国に暮らす人たちの特権だよなと、生物学者としては思う。ライオンの襲撃を恐れるシマウマやガゼルは、いくら疲れても横になってグースカ高鼾(たかいびき)というわけにはいかないだろう。シジュウカラのような身近な小鳥だって、ヘビなどが巣に侵入してこないか、常に監視を怠れない。では、自然の中で暮らす動物たちは、睡眠不足にじっと耐えているのだろうか。それとも、人間とは根本的に違う睡眠のとり方をしているのだろうか。

 不思議なことに、鳥の中にはグンカンドリやアマツバメのように、何ヵ月間も飛び続けるものがいる。哺乳類の中には、オットセイやイルカのように、1年の大半あるいはすべてを海で過ごすものがいる。これらの動物は、空を飛びながら、あるいは荒波に揉まれながら、眠ることができるのだろうか。それとも不眠に耐えるための特別な体の仕組みを持っているのだろうか。

 近年、動物の体に小型のセンサーを取り付け、活動を記録する技術が急速に進歩し、広く使われるようになった。私たちがスマートフォンやスマートウォッチを使って1日の移動距離、運動量、心拍数の変化などを管理できるように、特製の小型機器を使って野生動物の行動パターンや健康状態を把握できる。計測項目は通常、GPS情報、深度(海の動物の場合)、運動の程度を示す加速度などだが、最近になり、動物の脳波を計測して睡眠パターンを記録する機器が登場した。この革新的な機器のおかげで、野生動物がいつ、どこで、どのように眠るのかという素朴な疑問に答えを出せるようになってきた。

 そこで本稿では、「睡眠記録計」を使う最近の研究で明らかになった様々な動物の眠り方を紹介し、睡眠の多様さと奥深さを伝えたいと思う。

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