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渡辺佑基 鳥は飛びながら眠る――技術革新で明かされる動物の真の姿

渡辺佑基(国立極地研究所准教授)

片目を閉じて眠るカモ

 国内の至るところの水辺で、カモの仲間が水面に浮かんだり、陸に上がって休んでいたりするのが見られる。季節によっては小さな雛たちを引き連れていることもある。一見、いかにも平和な光景だが、当のカモにとってみればそうとは限らない。野良猫やワシ・タカ類に襲われたり、ヘビに雛を狙われたりするので、常時警戒を解けないのである。では、そんなカモたちはどうやって眠るのだろうか。

 複数のカモが水辺の草地や田んぼのあぜ道などで横1列に並んでいるところを見たことはないだろうか。実はこのとき、カモは巧妙な眠り方をしている。

 カモの睡眠を調べた研究によると、列の一番左側のカモは左目を開け、右目を閉じていることが多い。逆に、列の一番右側のカモは右目を開け、左目を閉じている。列の真ん中にいるカモは両目を閉じていることが多い。

 どういうことか。列の一番外側のカモは、外側の目を開けて周囲を監視しながら、もう一方の目を閉じて眠っている。左右の目と左右の脳を繋ぐ神経は交差しているので、左目が閉じていれば右側の脳が眠っており、右目が閉じていれば左側の脳が眠っている。

 これは半球睡眠と呼ばれる眠り方で、脳の半球(半分)だけが眠り、もう半分は覚醒しているという不思議な状態だ。開いた方の目に天敵の映像を見せると、カモはすぐに反応して逃げ出すことが実験で確かめられた。睡眠中も周囲が見えている証拠である。この眠り方により、天敵の来襲を警戒しながら眠ることが可能になる。

 半球睡眠が可能なのは、鳥類と一部の海生哺乳類(イルカやオットセイ)だけであると現在のところ考えられている。人間にはできないので、それがどんな感覚なのかは想像するしかない。卑近なたとえで恐縮だが、私は宴会の後、ひどく酔っぱらっても正しい電車に乗り、正しい経路を歩いて帰宅できる。しかし、翌日になると帰路のことはとんと記憶にない。あの感覚に近いのだろうか――。

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