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渡辺佑基 鳥は飛びながら眠る――技術革新で明かされる動物の真の姿

渡辺佑基(国立極地研究所准教授)

飛びながら眠るグンカンドリ

 半球睡眠は生命の神秘と言えるが、カモが地面に座ってじっとしている間に眠るということ自体に驚きはないだろう。

 だが、鳥の中には長い間飛び続けるものがいる。たとえばアラスカで子育てをするシギの仲間は、子育てが終わると1万キロも離れたニュージーランドまで、1週間ぶっ続けの羽ばたき飛行で移動する。もっと極端なのは、ひらひらと宙を舞うように飛ぶアマツバメの仲間である。小さなセンサーを鳥に取り付けた研究によると、ヨーロッパで子育てを終えたアマツバメがアフリカ大陸に渡って冬を越し、翌年の春にヨーロッパに戻るまでの約10ヵ月間、この鳥はほとんど(個体によっては全く)着地することなく空を飛び続けた。


 こういう鳥たちは、空中で眠ることができるのだろうか。だとしたら、どうやって、どのくらい?

 アマツバメに負けない飛翔のチャンピオンが熱帯の海にいるグンカンドリだ。グライダーのような細長い翼を持つこの鳥は、アマツバメと同様、子育ての期間を除く生涯のほぼすべての時間を空中で過ごす。体の作りは飛翔に特化しており、足が貧弱でろくすっぽ歩けない。驚くべきことに、魚を食べる海鳥なのに水面に降りることすらない。卓越した飛翔能力を生かし、魚を口にくわえた他の海鳥を空中で追いかけまわし、あちらが諦めて魚を放したところを「一丁上がり」とばかりにひょいとキャッチする。

 最近、野生のグンカンドリの頭に機器を取り付け、脳波を計測する研究が行われた。

 グンカンドリは日本で見られるトビと同じように、翼を横に伸ばしたまま上昇気流に乗って空中に大きな円を描く。その際の脳波を分析すると、グンカンドリは空中で細切れに睡眠をとっていた。

 しかも、カモと同じ半球睡眠が多かった。左右どちらの脳を休ませるかは、空中での旋回方向によって決まっていた。右方向に旋回する際は、右の脳が睡眠状態に入っており、これは左目は閉じられ右目は開いていたことを意味する。逆に、左方向に旋回する際は、左の脳が眠っており、右目は閉じられ左目は開いていたと考えられた。

 つまり、グンカンドリは上昇気流に乗って空中を旋回する際、進行方向側の目を開け、周囲を観察し、安全を確保している。同時にもう一方の目を閉じ、脳の片側を眠らせている。そうして、飛翔と睡眠という一見両立できそうにない二つの行動を両立している。

 けれどもこの巧妙極まりない睡眠方法では、飛び続けるために必要な睡眠の質や量の最低限しか確保できないようにも見える。というのも、グンカンドリが食べ物を探して海上を飛ぶ際、1日に平均40分しか眠っていなかったからだ。海から戻って樹上に降り立つや否や、睡眠の借金を返済するように、1日の約半分を睡眠に充てていた。

 この研究の示唆することは多い。まず、鳥は確かに空中で眠る。しかし、睡眠は細切れで短く、必ずしも十分とは言えない。しかも、それができるのはおそらく、グンカンドリやアマツバメのように空中で羽ばたかず、翼を横に伸ばして宙を舞う鳥に限られる。ばさばさと羽ばたいて長距離を渡る多くの鳥たちは、不眠状態で数日間飛び続け、降り立った休息地や目的地で死んだように眠るのだろう。

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