雨宮智浩 メタバースはセカンドライフの轍を踏むか

雨宮智浩(東京大学准教授)

ゴーグルの普及に向けて

 VRデバイスはまだ普及しつつある段階だ。VRゴーグルは16年にOculus Riftの製品版、PlayStation VR、そしてHTCのViveなどが次々に発売された。この年は「VR元年」とメディアで騒がれた。その後も小型化、高解像度化などの性能の向上が進み、20年10月に発売されたOculus Quest 2(現在のMeta Quest 2)は、世界累計出荷台数が推測値で1500万台を超えるヒット商品となった。これをゲーム機として見ればマイクロソフトのXbox Series X/Sの累計販売台数を上回り、PlayStation 5に迫る台数である。VRデバイスで使われている技術が高性能のスマートフォンに近いにもかかわらず、当初299ドルという低価格で販売されたことに耳目が集まった。販売元のFacebook(現Meta)はおそらく、赤字となるような廉価であってもハードウェアを急速に普及させる方針を選んだ。00年代前半にYahoo! BBが駅前でADSLモデムを無料配布していたのに似た戦略である。

 小型化されたとはいえ、現時点ではまだまだVRゴーグルは重い。30分以上使用するのは疲れる。乗り物酔いのように気分が悪くなる人もいる。顔に押しあてて固定するため、化粧や髪型が崩れたりもする。多くのユーザが困難を感じずに日常的に長時間利用するにはメガネやコンタクトレンズ程度にする必要があり、その開発には年単位の時間を要すると考えられる。

 さらに、VRゴーグルを教育用途で利用するとなると年齢制限も課題となる。業界では視機能の発達との関係から、13歳未満での利用を制限するルールを設けている。そのため、少なくとも小学校ではVRゴーグルを活用した授業は実施できないことになる。当面は高校生以上の教育の場や、社会人の教育訓練の場での活用が有力と考えられる。


(続きは『中央公論』2023年2月号で)

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雨宮智浩(東京大学准教授)
◆雨宮智浩〔あめみやともひろ〕
1979年山梨県生まれ。東京大学工学部卒業。同大学大学院修士課程を経て、NTTコミュニケーション科学基礎研究所研究員。2019年より東京大学大学院情報理工学系研究科准教授。同大学バーチャルリアリティ教育研究センター准教授兼務。専門は人間の錯覚を利用した情報提示技術の研究開発。総務省「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」構成員。
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