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疫病と戦争を考える上で外せない中公文庫 Dain

私の好きな中公文庫
Dain(だいん/ブロガー)
左から、『疫病と世界史(上)』、『補給戦』、『戦争の世界史(上)』
Dainが選ぶ「私の好きな中公文庫」
 ウィリアム・H・マクニール『疫病と世界史(上・下)』(佐々木昭夫訳)
 マーチン・ファン・クレフェルト『補給戦――何が勝敗を決定するのか』(佐藤佐三郎訳)
 ウィリアム・H・マクニール『戦争の世界史(上・下)』(高橋均訳)

 中公文庫といえば世界史だ。

  現代の問題を手繰っていくと、必ず歴史を紐解くことになる。その際、極めて重要な名著を廉価で出してくれるのが中公文庫だ。なかでも、大好き&ガチでお薦めしたいのがこれ。

 

 まずウィリアム・H・マクニール『疫病と世界史』。人類の歴史を「感染症」という観点から解きなおした名著で、コロナ禍の未来を考える際に外すことができない。

 当たり前だが、微生物は目に見えない。ましてや、昔の微生物なんて残っていない。だが、著者マクニールは、膨大な文献を読み解きながら、帝国や文明の勃興・衰亡レベルで影響を与えていた微生物の侵入経路を暴き、手記の間にこぼれ落ちそうなトリビアルを、疾病の観点からピックアップしてゆく。展開するエピソードが劇的につながっており、ページを繰る手が止まらない。

 面白いのは、病気の地域性が、文化や制度を条件付けていたことまで踏み込んだ点だ。例えば、カースト制度について。ヒンドゥー教における身分制度だが、これが発達した原因は、いわば疫学的な疎隔意識とでもいうべきものがあったのではないかと考察している。

 あるいは、19世紀のコレラの流行について。もともとコレラは、特定の地域の風土病だった。感染して歩けなくなった人の肉体的な限界(≒徒歩圏内)が、コレラを封じ込めていた。しかし、植民化するイギリスの軍隊によって、人口稠密な地域へと効率的に運ばれたため大流行したという。

 人と疫病は、あるバランスの上で"共存共栄"してきたともいえる。人類史とは疫病史、ヒトが病気を飼いならす歴史なのだと改めて認識させてくれる。

 

 次にマーチン・ファン・クレフェルト『補給戦』。ウクライナやシリアで続く戦争を考える上で欠かせない視点がこれ。戦争を「兵站」の観点から分析した名著で、勝敗は兵站によって決定されることが分かる。

 ニュース映像に採りあげられるのは、進軍や砲撃といった「戦う」局面に目を向けがちだが、戦争を遂行する際に最重要なのが、兵站だ。これがなくては戦うことすらできない単純な事実を思い知らされる。

 ナポレオン戦争からノルマンディ上陸作戦まで、軍隊を動かし、かつ軍隊に補給する実際的方法───兵站術を論じ、戦略に与えた影響を考察する。戦略は政治と同じく可能性の技術だといわれるが、国力や思想、情報、兵器あるいは戦術によって左右されるだけではなく、冷徹なる現実によって決定されると主張する。すなわち、軍需品や組織、管理、輸送、通信線についての諸現実によって決定されるという。

 兵站とは戦争のインフラであり、補給とは戦争をする動脈のようなものだということが理解できる。(現在は単行本『増補新版 補給戦――ヴァレンシュタインからパットンまでのロジスティクスの歴史』石津朋之監訳・佐藤佐三郎訳として発売中)

 

 最後は再びマクニールの『戦争の世界史』。「人はなぜ戦争するのか?」という疑問に対し、「人はどのように戦争をしてきたのか」という観点で、ギルガメシュ王の戦いから大陸弾道ミサイルまでを俯瞰しつつ、真っ向から応えた名著がこれだ。

 最初は大規模な略奪行為だったものが、略奪と税金のトレードオフが働き、組織的暴力が商業化する。戦争という技芸(art of war)を駆使する専門技術者が王侯と請負関係を結ぶ。

 常時補給を必要とする軍隊は「移動する都市」となり、軍事・商業複合体が形成され、ライバルとの対抗上、この複合体に依存して商業化された戦争を余儀なくされる。

 さらに、イギリス産業革命から軍事・産業複合体が支配する産業化された戦争を生み出され、アメリカで開発された旋盤技術により、銃火器の大量生産が可能となり、大砲や戦艦の製造技術が産業化され、全世界を顧客とする近代兵器製造ビジネスが誕生する。

 戦争をする主体(王侯・政府)の財政上の決定と、民間企業である武器製造会社の経営上の決定とが、縦横の糸のように交錯しあい、社会そのものが、長い時間をかけて、戦争というシステムにロックインされてきたのが分かる。

 戦争というと、実際の戦闘行為や、その犠牲者、破壊された街を想起する。だが、本書を読むと、戦争とは産業というシステムと緊密に絡み合うシステムそのものであることが見えてくる。

 疫病と戦争、いまを考える上で、中公文庫は何度も読み直したい。

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(Dainさんの著書/御本人撮影)

戦争の世界史(上)

ウィリアム・H・マクニール

Dain(だいん/ブロガー)
Dain(だいん)。古今東西のスゴ本(すごい本)を探しまくり、読みまくる書評ブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の中の人。座右の銘は、「”あとで読む”はあとで読まない」「よい本で、よい人生を」。
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