街道をめぐる3冊 荻原魚雷
武田泰淳『新・東海道五十三次』
井伏鱒二『七つの街道』
田中小実昌『ほのぼの路線バスの旅』
四十代半ばすぎ、古書会館に行っては街道関係の資料を買い漁り、東海道をはじめ、中山道、甲州街道、脇街道など、あちこちの宿場町を訪れるようになった。
その変化に自分でも戸惑っている。
そのきっかけになったのが武田泰淳の『新・東海道五十三次』である。
わたしの郷里は三重県鈴鹿市(東海道の庄野宿の近く)なのだが、親の入院その他いろいろな問題が続いて、東京と三重を行き来していたころ、『新・東海道』を鞄に入れ、新幹線に乗った。
この本はわたしが生まれた1969年に武田泰淳が妻・百合子の運転する車で東海道を走った紀行文学である。
69年5月に東名高速道路が全線開通――当時の日本の町並、道路事情などが目に浮ぶように描かれている。
途中、泰淳の父の故郷(愛知県海部郡本部田)に寄ったり、知多半島や渥美半島にそれたり、東海道からどんどん脱線する。
日本国内に自分が通り過ぎてきた場所が膨大にあることに気づかされ、三重と東京の往復が楽しくなった。
それからしばらくして井伏鱒二の『七つの街道』が復刊した。
1952年から57年にかけての歴史紀行文集である。
いわゆる江戸の五街道ではなく、篠山街道(京都・兵庫)、久慈街道(青森・岩手)、甲斐わかひこ路(山梨)、備前街道(岡山)などを探訪する。「近江路」では石山寺から琵琶湖周辺を散策し、最後はなぜか桑名へ。
おそらくかなり資料を読み込み、時間をかけて取材を重ねているとおもわれるのだが、井伏文学ならではの力の抜けた紀行文学に仕上がっている。
酒を飲んだり釣りをしたり、行き当たりばったりの街道旅を通して、町の歴史や人々の生活を描く。
田中小実昌著『ほのぼの路線バスの旅』の目次を見ると「東海道中バス栗毛」「山陽道中バス栗毛」とある。
高速道路を使わず、市バスを乗り継ぎ、西へ西へと移動し、東京に戻り、また西へ。二十年くらいかけて九州まで、昔、訪れた町を回想しつつ、バスの旅を続ける。
途中、わたしの郷里も通る。
四日市のストリッパーの思い出を綴り、東海道と伊勢の参宮道の分岐点の日永の追分から亀山を経て滋賀県の土山へ。
名古屋から三重県にいき、北上するようにして、鈴鹿峠をこえ、滋賀県にはいるというのが今回の旅のミソだが、じつはこれは昔の東海道で、こっちのほうがオーソドックスな道すじか。
文中に「鈴鹿馬子唄」「ミエライスの看板」「ホテル・キャンデー、平日ノータイム」といった言葉が出てくる。自分の知っている場所でもわからないことだらけ。
わたしも街道にはまり、バスに乗ることが増えた。
コミさんが旅をした時代から三十年以上の歳月が流れ、地方のバス事情も大きく変わっている。
荻原魚雷さん
武田泰淳