「移ろいゆく和洋折衷」片山淳之介
長山靖生編『文豪と東京 明治・大正・昭和の帝都を映す作品集』
池波正太郎『食卓のつぶやき』
大平一枝『昭和式もめない会話帖』
普段、和風と洋風どちらが好きかという質問を受けたり、話を耳にしたりする事があります。
その度によく思うのは、今当たり前にされている分けられた洋風と和風は実は時代を経て変化し、融合して出来た物である事がほとんどで、どちらかという事では無いように感じています。
今回は和と洋が折衷する現在の景色に至るまでの移り変わりを感じられる、お勧めしたい三冊を選んでみました。
一冊目は長山靖生さん編の「文豪と東京」。中でも夢野久作が関東大震災後に東京に入った時の話、特に銀座での災禍の描写の中に西洋化の様子が感じられます。当時の思考と様式がよく表れた描写を繰り返し読んでいると、発生時の1923年から遡る事わずか50年前には武士がチョンマゲを結い、帯刀し歩いていたという急激な時代の変化の中、思考や価値観が変わって行く時代の中での災禍だったのだと感じます。
続いては池波正太郎さんの「食卓のつぶやき」です。戦中、横浜のカフェに電話を借りに行く様子、同じく戦中の食糧難の時に貴重な卵を使って作ってもらった親子丼の味。
そして戦後に訪れたフランスでのオムレツの思い出に戦中戦後を経て日本独自の様式やエレガンスを備え始めた和洋折衷が、身近な様式になりつつも少し高級というか「よそ行き向け」の風景となってきた時代が見て取れます。サザエさんの中でカツオがデパートに行く時に学生帽を被っているのもこの頃です。
最後は大平一枝さんの「昭和式もめない会話帖」。和洋折衷が馴染みだした風景の中で滲み見える日本の心遣いや粋を感じ取れます。
例えば外食の際の会計時のやりとり、また、お誘いをお断りする中にもすっかり定着したカタカナの表現や、和洋折衷過渡期の風景の中での「粋がジャケットを羽織った」ような言い回しがとても楽しいです。
現在当たり前に毎日見かける様式はこれら三冊の本を通して浮かびあがる時代を経て、様々な様式が組み合わされて出来ているものが沢山。例えばどんな洋間でも殆どの人は部屋の中では靴を脱いで過ごす様子、携帯電話を使いながら通話相手にお辞儀をする人。街中でも注意深く周りに目をやると、当たり前に隠れた昔の面影が見つかるはずです。
「~風」という概念を飲み込む前に、目の前の風景を眺めてみると、「~風」ではなくそれぞれの生活様式の本格が融合した過程が見えてきます。
是非ぐるりとまわりを眺めて見つけてみてください。
片山 淳之介さん
長山靖生編