新装版という戦略  カバーを変えただけで購入につながるのか?

あの本が売れてるワケ 若手営業社員が探ってみた 連載第11回

内容は古いままで大丈夫?

では、新装版として売り出すうえでの条件などはあるのか、8月に新装版が発売された『桃花源奇譚』を題材に考えてみます。

『桃花源奇譚』の舞台は宋の時代の中国で、主人公たちが幻の土地「桃花源」をさがす旅にでる中華ファンタジー。もともとは1991年にトクマ・ノベルスから発売され、その後2000年に中公文庫から出しなおされ、今年新装版として生まれ変わりました。「刑事鳴沢了シリーズ」は初めて文庫がでてから15年後の新装版発売でしたが、こちらはその倍の30年近く時間がたってからの出し直しということになります。果たしてその間に内容は時代遅れのものになってしまっていないのでしょうか。

実はここに歴史モノの強みがあります。宋代の風俗・価値観に裏打ちされた世界設定や、登場人物たちの台詞回しは、現代の読者にとっても違和感がありません。さらに現代の読者に馴染みの薄い単語に注釈を入れたり、難読の人物名にルビを振ったりすることで、中華ファンタジーを読みなれていない人にも読みやすくなっています。

内容以外ではどうでしょうか。ちょうど「新装版 桃花源奇譚シリーズ」が発売された同じ時期に、新潮社から『「十二国記」三十周年記念ガイドブック』が発売され、話題を呼びました。『十二国記』が初めて世に出たのが1990年代。ちょうど『桃花源奇譚』が初めて発売されたのと同時期で、ジャンルも同じ中華ファンタジーとかなり読者層が似通っています。『十二国記』がいまだに根強いファンを獲得している、ということを考えると、同じように『桃花源奇譚』にも潜在的な読者がいることは容易に想像がつきます。ジャンルや作者に一定数のコアなファンがおり、購入者が見込めることも大事な要素でしょう。

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