新装版という戦略 カバーを変えただけで購入につながるのか?
マーケティングと書店員
また、新しいカバーを作る際にもある戦略を立てました。 それは編集段階で取ったカバーに関するアンケートです。カバーデザインを作るうえで気を付けたほうがいいことやどんなものが流行っているのかを、ファンタジー作品に詳しい書店員にヒアリングしたものです。どのイラストレーターにイラストを頼むといいかという質問では、実際に名具体例を挙げてもらっていて、今売れている本の装画を実際に手掛けた人の名前がずらりと並んでいます。
実際、このように編集段階で書店に意見を求めるケースは少なくありません。今回のようなカバーイラストだけでなく、書籍のタイトルや雑誌の特集内容など、社外の考えを取り入れながら本は作られています。特に書店員は日々大量の書籍を目にし、今どのような本が売れているのかを把握している方が多くいます。以前、実用書担当のある書店員から、『ティファニーブルー色をつかったカバーの健康本はよく売れる』という話を聞いたことがあります。これも実際に本をお客さんに売っている人ならではの感覚で、出版社目線だとなかなか気がつけないことです。
さて、『桃花源奇譚』のアンケートでは「キャラクターの人物のイラストが入った表紙がよく売れる」という意見もありました。確かに最近注目の『後宮の烏』 (白川紺子 著 集英社オレンジ文庫) や和風ファンタジーですが『烏に単は似合わない』 (阿部智里 著 文春文庫)もカバーは人物のイラストで、『十二国記』や新装版になる前の『桃花源奇譚』も同様です。
アンケート結果を参考にし、キャラクターのイラストメイン、そして実際の中国史を織り交ぜた硬派な一面も持つ内容から、『初歩からのシャーロック・ホームズ』など古典作品関連の本のカバーや帯のイラストも手掛けている鈴木康士さんにお願いし、このような素敵なカバーがうまれました。
新装版という戦略
これまで見てきた通り、新装版は単なるコンテンツの使いまわしではなく、それまでのファンとは違う読者層を獲得するための戦略です。そのため、ただカバーを変えるだけといってもマーケティングは必須で、作品を理解しどのような読者になら刺さるのか考える、といった面では新刊と変わりありません。ぱっと見の第一印象で「古臭い」と思われるようになってしまった名作をそのまま埋もれさせないためにも、新装版として出しなおす意義はあるのです。
次回は1月27日配信予定です。
お楽しみに!!
不老不死の伝説が眠る郷・桃花源。その謎を解く鍵は、旅芸人の少女・宝春にあった。不死の力を求める者たちに狙われた宝春は、生き別れの母を探す貴公子・戴星、天命を与えられた秀才・希仁に救われる。三人の出会いは、国を揺るがす壮大な冒険の始まりだった。中華歴史ファンタジー、ここに開幕!(全四巻)