「〈町の本屋〉から見た国際化と情報化」笈入建志

私の好きな中公文庫
笈入建志(おいり・けんじ/往来堂書店店長)
『人間の大地』『情報の文明学』
笈入建志が選ぶ「私の好きな中公文庫」
 犬養道子『人間の大地』
 梅棹忠夫『情報の文明学』

犬養道子『人間の大地』
40年近く前、高校に入り本を読み始めた頃、自分で本を選んでいるつもりでいても、その実、近くにいるちょっと進んだ友達の影響で本を手に取ることが多かったように思います。

そんな中の一冊が『人間の大地』(犬養道子)。

手元にある本の奥付を見ると初版が1992年でそのとき私はすでに大学生ですから、最初は1983年に刊行された単行本を読み、その後文庫を買い直したようです。

米ソによる冷戦と複雑に絡み合う南北問題、これを放置しては人類は早晩破滅に至るという警告の書です。
対立と分断そして無関心による矛盾が弱い人々の上に貧困や難民という問題になって現れる。

たった一つしかないわれわれ人間の大地=地球を健やかに次世代に受け渡していくためには、真の国際人の意識を持った人がその人たちに寄り添いながら難題に立ち向かうべきだし、市井の一般人も連帯の意識を持って、できることから始めるべきと説きます。

中国が豊かではない南側に分類されているなど、40年の時を経て情勢の変化はあるものの、グローバルな経済発展による環境問題の深刻化や、日本での難民の受け入れ問題などの新たな課題は尽きることがありません。

連帯と真の国際化を訴える著者の姿勢は久しぶりに読んでも色あせてはいないと感じます。

梅棹忠夫『情報の文明学』

その後私は、大学で国際貿易を学んだはずでしたが、フェアトレードの実現に取り組んだり、商社に入って世界と切り結んだり、ましてや世界の矛盾を広く訴えるためにジャーナリストになることもなく、相変わらず本屋の棚の前でまごまごしているうちに本当に本屋になってしまったのですが、「本」という情報を物体にしたものを日々扱うものとして示唆に富んでいると感じるのが『情報の文明学』(梅棹忠夫)です。

思い出してみると私が10代だった頃には、これからは情報化社会だと毎日のように聞かされていました。しかし情報化社会っていったい何なのかがよくわからない。

この本によれば文明社会の発展は農業文明→工業文明→情報産業文明と進む。
工業文明はそれまでの農業を工業化しながら世界を覆い尽くす。工業抜きには成立しない農業。
なんとなくわかります。

情報産業はその前段の工業文明・農業文明を情報化しながらこれまた世界を覆い尽くす。
現代人にとって農産物も工業製品も全て情報。南魚沼郡のコシヒカリとか、レクサスのSUVとか。
それらの差異が重要なのも、なんとなくわかる。

そして、農業生産を左右するのは自然環境。工業生産の場合は投入される労働量とエネルギー量。
ならばこれからの時代、情報産業の成否の鍵を握るのは? と身を乗り出して読んだら、まだはっきりしないとしか書いてない! 
時々読み返しながら、自分で考えます。

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笈入建志さん

情報の文明学

梅棹忠夫_著

今日の情報化社会を明確に予見した「情報産業論」を起点に、価値の生産と消費の意味を文明史的に考察し、現代を解読する。〈解説〉高田公理

笈入建志(おいり・けんじ/往来堂書店店長)
1970年生まれ。大学卒業後、東京旭屋書店に入社。2000年、東京・千駄木の往来堂書店の店長となる。2017年、同店の運営会社から独立し株式会社往来堂書店を設立。加盟する書店グループNET21で、広報と文庫新書担当。
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