清水亮 今、世界中でゲーム開発者が"パニック"に陥っている理由とは?企業が掲げる「民主化」の嘘

人工知能はウソをつく【第5回】
清水亮

大規模言語モデル「民主化」の動きが辿る先

興味深いのは、誰も大規模言語モデルによって黒字が出る方法に辿り着いてないことだ。OpenAIはクローズドであるにもかかわらず赤字を垂れ流していると言われる。Microsoftのバックアップがあればこそだが、Microsoftとていつまでも赤字を許容できるわけではないだろう。

大規模言語モデルよりも、むしろ画像生成AIの方がより民主化されていると言えるかもしれない。たとえばcivitai.comというサイトでは、世界中の愛好家が作った独自の画像生成モデルやLoRAアダプターが公開されている。

興味深いのは、誰もこれでお金を稼いでいないことだ。

プラットフォーマーはもちろん、アップロードした人もお金を受け取っていない。いくかの開発者Patreonやgithubなどを通じてパトロンからの支援を受けているケースあるだろうが、基本的には無料で頒布されている。

大規模言語モデルの民主化の動きは、画像生成モデルの民主化の動きを綺麗にトレースしている。

画像生成モデルが民主化されたのは昨年8月。Stability.aiがStableDiffusionという画像生成モデルを無償公開したことに端を発する。そこから、世界中のハッカーたちの手によって改良に改良が重ねられ、高速化し、コンパクトになり、より非力なマシンでも動作するようになった。

そして、ここで生まれた工夫の数々が大規模言語モデルに適用されている。生成するものが絵なのか会話なのかといった違いがあるだけで、本質的にはAIは全て同様の構造を持っているからだ。

画像生成AIは、StableDiffusionまで民主化されていなかった。それ以前に画像生成AIサービを事実上独占し、自由に使えなくしていたのは、他ならぬOpenAIだ。StableDiffusionの登場によってOpenAIの画像生成AIは急速に陳腐化し、今は誰も使わなくなった。

この先、大規模言語モデルにおいても同じことが起きるだろうか

増補版 教養としてのプログラミング講座

清水亮

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清水亮
新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。『教養としてのプログラミング講座』(中央公論新社)など著書多数。
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