平山亜佐子 断髪とパンツーー男装に見る近代史 お粂、お幸の場合
第八回 お粂、お幸の場合
平山亜佐子
男装の叔母を嫌がる姉の養子
記事は1906(明治39)年だが、この時点でお幸は数え50歳。つまり、男装を始めたのは明治のはじめということになる。
お幸の2番目の交際相手が女義太夫というのは興味深い。
女義太夫は男性名の芸名をもち、裃〈かみしも〉をつけた男装スタイルで浄瑠璃語りをする元祖アイドル、女性が好きな女性にもきっと刺さるに違いない。
さらに興味深いのは、姉の息子が男装の叔母を嫌がっている点。
今まで見てきた男装者の家族は、心配こそすれ嫌がることはなかった。
親としては、どんなファッションでもどんな性自認でもかわいい子どもである。
ところが、養子に来た男性は容赦ない。
本来であれば家はお幸のもので、あれこれ言われる筋合いはないが、家父長制社会では男子が主人、養子であっても出ていけと言われたら女性は出て行くしかないのである。
お幸とお兼の将来に幸あれと願うしかない。
参考文献
「散髪お粂」1904(明治37)年5月15日付読売新聞
「名古屋の男装婦人」1906(明治39)年7月20日付萬朝報
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平山亜佐子
挿話蒐集家/文筆家
1970年、兵庫県芦屋市生まれ。エディトリアルデザイナーを経て、明治大正昭和期のカルチャーや教科書に載らない女性を研究、執筆。著書に『20世紀 破天荒セレブ:ありえないほど楽しい女の人生カタログ』(国書刊行会)、『明治大正昭和 不良少女伝:莫連女と少女ギャング団』(河出書房新社、ちくま文庫)、『戦前尖端語辞典』(左右社)、『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)、『明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記』(左右社)がある。なお、2011年に『純粋個人雑誌 趣味と実益』を創刊、第七號まで既刊。また、唄のユニット「2525稼業」のメンバーとしてオリジナル曲のほか、明治大正昭和の俗謡や国内外の民謡などを演奏している。
1970年、兵庫県芦屋市生まれ。エディトリアルデザイナーを経て、明治大正昭和期のカルチャーや教科書に載らない女性を研究、執筆。著書に『20世紀 破天荒セレブ:ありえないほど楽しい女の人生カタログ』(国書刊行会)、『明治大正昭和 不良少女伝:莫連女と少女ギャング団』(河出書房新社、ちくま文庫)、『戦前尖端語辞典』(左右社)、『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)、『明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記』(左右社)がある。なお、2011年に『純粋個人雑誌 趣味と実益』を創刊、第七號まで既刊。また、唄のユニット「2525稼業」のメンバーとしてオリジナル曲のほか、明治大正昭和の俗謡や国内外の民謡などを演奏している。