単行本『無常といふ事』がやっと出る(二)

【連載第十二回】
平山周吉(ひらやま・しゅうきち)

大きく分かれた「近代文学」グループの評価

「近代文学」グループでは、『無常といふ事』については評価が大きく分かれたようだ。平野謙は「文芸時評」(「毎日新聞」昭和21617)で『無常といふ事』に言及した。中村光夫よりも一ヶ月早い。本来は雑誌に載った新作小説を月旦する場なのに、そのマクラとして相当の分量を『無常といふ事』に充てている。

「八月十五日以来すでに十ヶ月、小林秀雄はかたくなな沈黙を守って口をひらこうとしない。たゞ一度『近代文学』誌上の座談会で発言したが、それも過去に養い育てた美神の片鱗を示したまでだ。かゝる強いられた沈黙と中世的古代という精神構造の発掘(曖昧な言葉遣いを許せ、詳しくは新刊『無常といふ事』の『平家物語』『西行』『実朝』を見よ)とは無縁のものではない。騒然たる今日の文壇と対置して、私はそこに一貫する爽かな精神の運動を感得する」

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