エイプリル・フール、「戦艦大和」の吉田満に会う(四)
大衆娯楽雑誌「サロン」とその発行元
本文が始まる前に「作者のことば」があり、次の見開きに吉川英治、小林秀雄、林房雄、梅崎春生の顔写真入りの推薦の辞が並ぶ。そして次から本文が二十四頁にわたって続き、向井潤吉の大きな挿画が迫力を生み出している。向井潤吉は藤田嗣治と並ぶ戦争画の名手である。全体に力が入った好編輯で、週刊誌大の誌面をよく生かしている。目次に戻れば、他の小説は久米正雄と新田潤、連載は「肉体小説」三大連載で、舟橋聖一、田村泰次郎、富田常雄と豪華ではないか。城山三郎「女子大学生の生態(探訪)」といったルポもある。カストリ雑誌には分類できない、大衆娯楽雑誌としかいいようがない布陣だ。
銀座出版社は奥付では千代田区麹町にある。銀座ではないところがインチキくさいが、創刊号を見ると所在地は銀座、それも電通ビルの七階にあるから、「銀座出版社」で問題ない。社長の首藤恒は戦前は新聞聯合の長老政治記者だった(小楠正雄『記者魂の記』)。出版局長の升金種史は銀座出版社の倒産後、電通の出版部長になっている(松本光史『或る広告屋の随想』)。電通とは縁が深そうな会社だ。吉田満と一緒に出頭した「サロン」編集長の水上素夫は別名水上正寛ともいい、銀座出版社が倒産した後には、自由国民社、要書房、集英社などで編集を続けた。『名著の履歴書――80人編集者の回想』に執筆していて、そこで坂口安吾の『堕落論』を回想している。銀座出版社から安吾は小説集『逃げたい心』、評論集『堕落論』、福田恆存編集・解説『坂口安吾選集』(全九巻)を出している。
「昭和二十一年の夏、私たちの社で出していた『サロン』という娯楽雑誌(といっても現在の娯楽誌とは異なり、もっと大人むきのものでしたが)で、小説特集を企画、坂口さんにも依頼することになり、編集部の入江元彦君が担当しました。(略)この時の原稿は「続・戦争と一人の女」で、『サロン』の小説特集号に発表されました」