新書大賞2021 大賞受賞・斎藤幸平先生 講演動画を公開中!

新利権集団が中国を暴走させる

座談会
清水美和(東京新聞論説主幹)×吉崎達彦(双日総合研究所副所長)×渡部恒雄(東京財団上席研究員)

中国につけ込まれる民主党というジャパン・プロブレム

渡部 国際環境よりも心配していることがある。日本自身だ。(笑)
 今、話に出たようなことを十分に理解して中国に対するならば、日本ができることは多々ある。たとえば、中国自身、まだまだ日本に投資してほしくて仕方ない。そういう技術やノウハウを日本は数多く持っている。ところが、せっかく交渉に使えるカードがあるのに、目の前の事態に動揺してゲームを降りてしまったり、アメリカと組むべきところで組まなかったり、無駄な行動ばかり行っている。今こういう事態だからこそ、手持ちのカードを冷静に見つめ直し、戦略的な切り方を考える必要があると思う。

清水 まったくその通りで、裏を返すと、この間そうやって日本がまずい対応を取り続けているがために、中国リスクを高めているともいえる。
 たとえば、一九八九年の天安門事件以降、中国が国際的な制裁にあう中で、日本が対中関係を巧みにマネージして国際社会に復帰させWTOにも加盟させた。このことが、中国のここまでに至る発展に大きく貢献した。批判の多い対中円借款にしても、中国をおかしな方向に向かわせないという意味で、大きな役割を果たしている。
 ところが、小泉靖国参拝問題によるいがみあい以降、日本人はそういうことをすっかり忘れてしまい、「中国は危ない、怖い」と逆上して、手持ちのカードを見ようとさえしない。実際には、中国が抱える問題を解決できるノウハウを、日本はたくさん持っている。そういうものを活かして中国をマネージしていけば、大きなクラッシュは避けられるはずだ。アメリカと組んだり、東南アジアと組んだり、あるいは単独でもできることがある。

渡部 中国は、この間、前原外務大臣に攻撃を集中している。なぜかといえば、彼が日米同盟論者だからだ。中国には、「敵」がはっきりみえている。やはり、日米同盟は怖い。逆にいえば、日本からすれば同盟強化は手持ちの強いカードであり、それによってできることが、まだまだあるということだ。

吉崎 ポテンシャルはあるし、やれることもある。しかし、レーガンの言葉を借りれば、民主党政権は「ソリューションではなくて、それ自体がプロブレム」だ。果たして彼らに期待できるのか。

渡部 もちろん民主党の問題はある。けれど、戦後の政治体制を振り返っても、日本は国としての危機管理と戦略策定の仕組みを構築してこなかったという点を、しっかり反省しておくべきだと思う。本来、政府には、外交、軍事、経済といったものを一括して危機管理する組織があるべきなのに機能していない。一度、安倍元首相が「日本版NSC(国家安全保障会議)」をつくろうとしたが、野党だけでなく自民党内部からも反対があって頓挫した。さまざまな事態に遭遇して、よしんば政権党のリーダーがノウハウを学習したとしても、政権が代われば、またゼロからのスタートになるのであれば、国が学んだことにはならない。

清水 そのことについて言えば、やはり外務官僚を使い切れていないことが問題だと感ずる。今回の尖閣事件の事態収拾の過程でも、民主党政権は官僚機構を排除し、北京の日本大使館も無視して、事を進めた。
 具体的に言えば、仙谷官房長官が民間コンサルタントのルートを探し、中国側から「政府代表を送れ」というレスポンスを得て、細野前幹事長代理を派遣した。「大使館などを介在させないように」という要請を、日本側から行ったと聞いている。

渡部 今回のような場合に、官房長官と外務大臣が緊密な関係を築いていて、調整ができる状況にあれば、必ずしもNSCのような組織がなくても機能したはずだ。ところが、そうはなっていないようだ。

清水 細野前幹事長代理が出かけてから関係改善の兆しが出て、結果オーライのような雰囲気になっているが、とんでもない錯覚だ。中国が「御しやすい」仙谷官房長官をターゲットにして、そのルートで交渉を進め、一方で先ほど話に出たように、中国にとって「危険な」前原外相を攻撃し、両者の分断を図る。そういう中国の戦術に、まんまとはまっているのだから。
 日中首脳会談にしても、本来は外交レベルでシナリオを書いて調整を進めるべきもの。いろいろ批判を受けているが、外務省には中国を深く知る人間が多くいる。彼らの知恵を活かすべきだ。ところが、実際には官房長官が、中国大使と直接、話を進めている。「分断された対中国外交」という危機的状況が、現在も進行中だ。

吉崎 こういう時だからこそ、財界人をはじめ民間のパイプもフルに活用すべきだ。中国通は、いくらでもいる。民主党は、せっかく丹羽宇一郎・前伊藤忠商事会長を、反対を押し切ってまで在中国大使に任命したのにもかかわらず、使いこなせていない。

渡部 かつての自民党は何事でも二枚腰で、相反するものを抱え込めるという奥深さがあった。それが、昨今の政権は、相手を敵と味方に峻別して、苦手な敵とは付き合わないという傾向があるように思われる。これは国内政治でも国際政治でもやってはいけないことだ。敵だからこそ、いくつものパイプを構築する必要がある。吉崎さんが言うように、今はそういうパイプを総動員する時期だと感ずる。

清水 繰り返しになるが、今の中国にはさまざまな勢力が蠢いていて、政権がコントロールするのに四苦八苦の状態だ。だからこそ、日本がイニシアチブを取って中国政府と協力できる枠組みをつくり、政権が反対勢力に説得力を持てる環境を整える、といった戦略を持つことが大事だ。今の中国は、しかるべき協力の手を差し伸べれば、必ずつかんでくるはずだ。

 問題点ばかり強調したが、今回の事態を通して、民主党政権の政治家は篩に掛けられた。誰と誰がダメかは国民から見ても分かっただろう。今後、急速に淘汰が進むと思う。彼ら自身も危機感を募らせている。少なくとも、政と官が角を突き合わせていたら大変なことになるという認識が芽生え始めたという感触を取材の中で得ている。尖閣事件の外交敗北を日本外交の転換点にしてもらいたい。

(了)

〔『中央公論』2010年12月号より〕

1  2  3  4  5