田嶋幸三×三森ゆりか JOCやサッカー界のエリートが飛びつく「言語技術教育」(上)
インタビューの「どうですか?」
─ラグビーのワールドカップは日本チームの快進撃でしたが、三森さんは独自の視点から特に選手のインタビューに注目していたそうですね。
三森 私自身、これまでJOC(日本オリンピック委員会)の若手アスリートに向けた講習で、またJFAアカデミー福島(日本サッカー協会が二○○六年に設立したエリート教育機関。中高一貫の寄宿制によって、世界基準をめざす教育プログラムを実践。以下アカデミー)で言語技術の教育をしてきたので、世界的な舞台で選手たちがどんな表現をするのかに、とても関心があります。インタビューを録画して細かく観察しましたが、まず気になったのは選手たちよりも日本の記者たちの質問でした。「どうですか?」という質問が勝者インタビューでも繰り返されていましたが、それでは何を聞きたいのかが具体的にわからない。そのような質問をされても内容が曖昧なので、答える選手の方も感じたことを勝手にとうとうと述べるだけ。質問と答えがまったくかみあっていないシーンがいくつもありました。
田嶋 たしかにサッカーでも似たようなことがありますよね。「どうですか?」といった質問をする記者に対して、最近では選手の方から「ああいう質問は困る」と苦言が出るようになりましたよ。
三森 もし外国人の選手にそのような質問をしたら、どうでしょうか。いったい何を聞かれているかわからない。だから、彼らは答えようがない。実際、ラグビー日本代表では戸惑う外国人選手の姿もありました。欧米では、そもそも質問とは具体的なものであって、それに対して選手が的確に答える、というのが当たり前の習慣なので、日本の記者の質問に戸惑ったのではないでしょうか。
田嶋 ラグビーやサッカーだけの問題ではなく、「どうですか?」という質問を許してしまう日本の習慣や風土の問題ですね。日本人は日本人同士、「あうんの呼吸」とか「忖度」「空気を読む」といった、海外から見れば特殊なコミュニケーションを当たり前にしてきた。しかし、国際化がここまで進み外国人と言葉で対等に渡りあわなくてはならない時代に、日本的コミュニケーションだけではもはや通用しなくなってきている、ということだと思うのです。
三森 そう、相手が日本人ならたとえ主語がなくても、あるいは曖昧な質問でも対話が成立するかもしれません。でも、国際的な場で相変わらず曖昧な言葉の使い方を続けていると、むしろ日本にとって不利になりますし、日本の国語教育はこのままで良いのか、もっと危機感を抱くべきではないでしょうか。