災害の多発化・激甚化で空き家は新たな事態を引き起こす存在に。家をつくることしか考えてこなかったツケ 野澤千絵

野澤千絵(明治大学教授)

「もぐらたたき」の空き家対策

 15年2月、空家等対策特別措置法が施行されました。地域の安全、衛生、生活環境、景観などに悪影響を与えている空き家(特定空家等)に公的な措置が可能になりました。特に、市町村の空き家担当課が、空き家の所有者探索に固定資産税課税情報を活用することができるようになり、多くの市町村で近隣から苦情や通報が来る荒廃した空き家の所有者を探索し、適正管理を行うよう連絡するようになりました。

 ただし、市町村の空き家対策は、財政面、マンパワー、モラルハザードといった壁もあり、相当ひどく荒廃した状態の特定空家等が中心です。しかし、こうした特定空家等を対象とした空き家対策だけでは、終わりなき「もぐらたたき」にしかなりません。なぜなら、時間の経過とともに、一般的な空き家は荒廃が進んでいくため、次から次に「特定空家等」入りするからです。そこまで荒廃しておらず、市町村がマークしていなかった一般的な空き家が、災害の多発化・激甚化で、一気に「特定空家等」入りしてくるという新たな事態も生じています。

問題先送りの罪

 なぜ空き家が増えるのでしょうか。実家等を相続した後、遺品・仏壇の整理がなかなかできない、思い出があって処分のケリがつかない、相続で揉めているなどで一定期間空き家化するのはやむを得ないとしても、利活用が可能なレベルで売却や賃貸化といったアクションを起こせば、大きな問題は生じません。しかし残念ながら、一旦空き家化すると、とりあえず置いておくという問題先送りが長期化することが多いのです。

 実際に、総務省住宅・土地統計調査(18年)の「世帯所有空き家」に関する調査によると、現住居とは別に相続・贈与で所有する空き家(別荘・売却・賃貸用除く)の73%(期間は不明とした18%含む)が5年以上空き家状態となっています。また、現住居とは別に所有する空き家の所有者を年齢別に見ると、60~74歳が50%、75歳以上は23%を占め、今存在している空き家の所有者は既に高齢化が進行しています(図2)。

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 今後、空き家の所有者はさらに高齢化すると、維持管理も行き届かなくなり、空き家問題を解決しようにも体力的、精神的、金銭的な負担感が増していきます。空き家が解体しなくてはいけない状態になっても、年金暮らしの高齢者には解体費の捻出は難しく、問題先送り状態は続きます。そして、次の代替わりが発生すると、空き家の元々の所有者から縁遠い人たちに所有権が移り、相続放棄が続出し所有者不明「空き家」になりかねません。市区町村も、モラルハザード問題や財政難で、費用の回収見込みもなくやみくもに代執行で解体するわけにもいきません。その結果、一定数が塩漬け状態で地域に残り続け、将来世代に対応を押し付ける事態となっています。
(構成:長谷川あや)

中央公論 2021年12月号
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野澤千絵(明治大学教授)
〔のざわちえ〕
1971年兵庫県生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。東京大学先端技術研究センター特任助手、東洋大学理工学部准教授・教授などを経て、現職。専門は都市政策、都市行政、まちづくり。著書に『老いた家 衰えぬ街――住まいを終活する』などがある。2021年度より日本都市計画学会理事。

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