横道 誠 宗教2世問題とは何なのか
前史を整理する
さて、ここからは宗教2世問題がどのように注目されていったかを説明しよう。
まずは「カルト2世」が一部で注目された。カルト2世とは、カルトとして議論される宗教団体に所属する親の方針によって、自身も同団体に属することになった子だ。
1995年、日本社会に衝撃を与えたオウム事件を契機として、日本脱カルト研究会が結成された。カルト団体の元信者、その家族、宗教家、弁護士、宗教社会学者、精神科医、心理士などから構成され、2004年に「日本脱カルト協会」へと発展し、存続している。公式ウェブサイトでは、相談機関ではないこと、「破壊的カルト」の諸問題や、カルト団体に関わってしまった当事者とその家族のカウンセリング経験の共有および社会復帰策等の研究を行い、成果を普及させることを謳っている。
この団体は早くからカルト2世問題に焦点を当てており、機関誌『日本脱カルト協会会報』では、2011年に「2世が語る、脱会と回復」と題する特集を組み、「『エホバの証人』2世の脱会状況とその後」や「ある統一協会2世信者の物語」といった記事を掲載した。
学術論文としては、2000年代に宗教社会学者の猪瀬優理が、すでにカルト団体に限定されない視点から宗教問題を考察し、宗教1世(親信者)が宗教2世(子信者)に与える影響関係を読みとき、「脱会プロセスとその後――ものみの塔聖書冊子協会の脱会者を事例に」(『宗教と社会』8号、「宗教と社会」学会編、2002年)や、「信仰継承に影響を与える要因――北海道創価学会の調査票調査から」(『現代社会学研究』17巻、北海道社会学会編、2004年)といった論文を発表していた。
また、カルト2世研究の枠組みを使って臨床心理学者の黒田文月が発表した、「家族の宗教問題で悩む青年期男性の心理療法――"カルト二世"からの解放と自立」(『心理臨床学研究』24号、日本心理臨床学会学会誌編集委員会編、2007年)も初期の宗教2世研究として特筆すべきだ。これらの論文は広く世論を喚起するものではなかったが、貴重な先行研究と言える。