横道 誠 宗教2世問題とは何なのか

近年、注目を集める事情と背景
横道誠(京都府立大学文学部准教授)

21世紀の人権意識

 宗教2世問題が耳目を集めるようになったのは、ごく最近のことだ。背景として、日本国内での人権意識の高まりがある。「失われた30年」と呼ばれる経済停滞を体験してきた私たちだが、人の尊厳に対する配慮は、30年前よりもずっと高まっている。

 2000年代には、北海道にある精神障害者のための地域活動拠点、浦河(うらかわ)べてるの家で当事者研究が生まれ、急速に広がって病者と障害者の声が存在感を強めるのを助けた。13年、「ブラック企業」がユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに入賞し、労働者の過酷な職場環境が、それまで以上に可視化されるようになった。15年、電通のダイバーシティ・ラボが約7万人を対象として「LGBT調査2015」を実施し、LGBT層に該当する人が7・6%に達し、その商品・サービス市場規模は5・94兆円と試算した。以後、LGBTという語は急速に社会に浸透し、その人権保護策が講じられるようになった。17年、アメリカで始まった性被害を告発する#MeToo運動が世界各地に飛び火し、日本でも女性たちが過去の性被害について、抗議の声をあげはじめた。

 これらの動きと連動するようにして、現在の日本で影響力が大きいSNSのTwitterには「宗教2世界隈」が形成されていった。「界隈」とは、同じ業界や、趣味嗜好、問題意識が共有されたコミュニティ、あるいはクラスターを意味するインターネット用語だ。さまざまな宗教によって心を痛めつけられた人たちが、日常的に過去と現在の体験を発信するようになった。

 決定的だったのは、2017年に『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』(いしいさや著、講談社)、18年に『カルト宗教信じてました。――「エホバの証人2世」の私が25年間の信仰を捨てた理由』(たもさん著、彩図社)という2冊のマンガが刊行されたことだ。

 21世紀に入って、マイノリティの属性を自認する人が身辺の状況をエッセイマンガとして伝える作品が増えて人気を博してきたが、この2冊もその体裁を取っている。

 宗教2世による告白本はそれまでにも刊行されていたが、マンガという手に取りやすい媒体をとおして世に問われたことで、宗教2世界隈は活性化し、さらに多くの発信者を生んだ。

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