〈デトロイトでは197歳の老人まで投票〉米大統領選のデマを近畿地方の田舎町から流し続けたX氏の正体とは
※本稿は、『情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体』(著:読売新聞大阪本社社会部)の一部を抜粋・再編集したものです
匿名のまとめサイト運営者を特定
私たちのツイッター分析でも、日本で「選挙不正」に関するデマが拡散した要因の一つに、あるサイトの存在があることはわかっていた。2000回以上リツイートされた投稿のうち、最も多い18件がそのサイトの発信だったのだ。
投稿内容を見ると、大統領選に関して英語圏のSNSなどで出回っている怪情報を見つけては、目をひく日本語のタイトルをつけ、次々と発信していた。
〈デトロイトでは197歳の老人まで投票〉
〈ミシガン州で6000票のトランプ票がバイデン側に加算される誤作動を起こした集計ソフト、ウィスコンシン州でも19032票の誤作動を確認〉
〈わずか1分の間にトランプの票が突然19958減り、バイデン氏に同数の19958票が加算される〉
いずれも米国の州政府や主要メディアが誤りだと指摘しているもので、元の英語の投稿もその後、一部は削除されている。
このサイトは5年以上前から存在し、注目を集めそうな事象に関するネットのうわさなどを集め、それをつなぎ合わせただけの記事を載せる「まとめサイト」と呼ばれるものの一つだった。過去の記事を見ると、根拠のない話に扇情的なタイトルを付け、誹謗中傷や差別を招きかねない内容も少なくなかった。
2017年、沖縄県の保育園の屋根で米軍ヘリの部品が発見され、米軍の責任を問う声が上がったが、このサイトが「(保育園の)自作自演の可能性も」とのデマを拡散させたことで、信じた人から保育園に誹謗中傷の電話が相次いだという。
20年には、国内の新型コロナ感染者の4割が外国籍だと誤解させる記事を掲載し、「病院が外国籍に占領されてしまう」と外国人差別をあおるような文言を記している。
取材当時、このサイトはツイッターのフォロワーが10万人を超えるなど、その影響力は見過ごせないほど大きなものだった。一方で、サイトには運営者の名前も連絡先も記されておらず、いったい誰が書いているのか、実態が全くわからない。
『情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体』(著:読売新聞大阪本社社会部/中央公論新社)
どのようなサイトでもネット上の住所にあたるドメインがあり、誰でも取得者の氏名や住所を閲覧できる仕組みにはなっている。
しかし、このサイトの取得者を調べたところ、登録代行サービス業者の名前になっており、実際の運営者のことはわからなかった。こうした代行サービスを使えば、身元を隠したまま運営ができるため、利用者が多いという。代行サービス業者に取材したところで、業者が個人情報を明かすはずもなかった。