〈デトロイトでは197歳の老人まで投票〉米大統領選のデマを近畿地方の田舎町から流し続けたX氏の正体とは

情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体
読売新聞大阪本社社会部

記者の直撃取材に本人が語ったことは‥‥‥

この時は12月中旬。「年末年始には実家に戻ってくるのではないか」。そう考えた私たちは、彼が現れるのを待つことにした。関係者の情報では、X氏はこれまでに、白のワンボックスカーに乗っている姿が目撃されている。実家の前に白のワンボックスが止まっていれば、X氏が滞在している確率は極めて高い。

だが、大みそかになっても帰ってきた形跡はなかった。こちらの動きを察知し、接触を避けようとしているのだろうか。戻ってこなければ、話を聞けるチャンスはもう訪れないかもしれない。取材班の中で、そんな懸念も出始めた頃だった。

X氏が帰ってきている――。年が明けた1月4日未明、関係者から電話で情報がもたらされた。

私たちは車で急行した。午前6時頃に実家の近くで車を降りると、辺りはまだ真っ暗だ。気温は氷点下1度。家の敷地の前まで歩いていると、吐く息は白かったが、視線の先には確かに目印の車が止まっていた。

空が明るくなってきても、家の中の様子はうかがい知ることができなかった。そのまま息を潜めて待っていると、午前9時頃、玄関から一人の男性が出てきた。大柄で髪を茶色に染めている。関係者から聞いていた特徴から、本人に間違いなかった。

少し離れた場所からX氏に駆け寄り、サイト名を挙げて取材の趣旨を説明した。X氏は警戒感をあらわにした。

「あれは俺がやっているんじゃない。先に言っておくけど」

X氏は、受け取った記者の名刺にじっと目を落としたままだ。予期せぬ取材に驚き、どう答えようか思案しているのだろうか。

「私たちも取材して色々と事実を確認しています」と伝え、運営の趣旨について質問すると、X氏はしぶしぶ答えた。

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