〈デトロイトでは197歳の老人まで投票〉米大統領選のデマを近畿地方の田舎町から流し続けたX氏の正体とは

情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体
読売新聞大阪本社社会部

誰にでもできるお手軽なビジネス

大統領選では、他にも国内の五つのまとめサイトが根拠のない情報を大量拡散させていた。過去に在日外国人のヘイトスピーチ(憎悪表現)につながる内容を掲載しているものもあった。怒りをあおり、とにかく刺激を与えるような文言で注目を集めさえすれば、事実かどうかはどうでもいい。そんな「クリックさせたもの勝ち」の姿勢が、こうしたサイトの特徴として浮かぶ。

ITジャーナリストの三上洋氏によると、デザインなどの見た目がある程度、洗練されているため、普通のニュースサイトのような印象を与えるまとめサイトも少なくないという。 

「事実確認も何もしないので、SNSや匿名掲示板にあふれているデマや真偽不明の話を加工するだけで、1本の記事を数分から数十分で作ることもできる。誰にでもできるお手軽なビジネスだ」

三上氏はこう表現した。

取材班がX氏のサイトの閲覧数を分析ツールで見積もると、20年9~10月は月約250万回。大統領選の情報を発信した11月は約370万回に増えていた。どれほど広告収入があったのかはわからないが、少なくとも月50万円には上ると推計された。

直撃取材からしばらく後、さらに詳しい話を聞こうとX氏の携帯電話を何度か鳴らしたが、X氏が応じることはなかった。


『情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体』(著:読売新聞大阪本社社会部/中央公論新社)

米大統領選→コロナワクチン→ウクライナ侵攻、次々に連鎖する陰謀論。誤情報をネットで流布する匿名の発信者を追い、デマに翻弄される人々の声を聞く――。高度化する"嘘"の裏側に迫るドキュメント。『読売新聞』長期連載「虚実のはざま」、待望の書籍化。

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