「北新地のママが感染させた」。志村けんさんのコロナ感染を巡り、最初にツイッターに<偽>情報を流した者の正体を追う
情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体
読売新聞大阪本社社会部
身に覚えのないことで知らない人に責められる恐怖
しかし、これは全くのデタラメだった。ママは志村さんとは面識すらなく、女性に囲まれた志村さんの写真は、過去に別の店で撮影された無関係のものだったという。
ママは自身のインスタグラムで「面識がない」と否定したが、「ウソつき」「証拠を見せろ」という批判のメッセージが殺到し、しばらくスマホの通知音が鳴りやまない日が続いた。「どこかで襲われるかもしれない」と外出も怖くなり、警察にも相談した。
志村けんさんの感染を巡るデマの投稿に使われた写真。実際は、志村さんの感染が報道される1か月以上前に撮られた誕生日パーティーの写真で、感染源とされたママたち2人は参加していなかった(写真提供:読売新聞大阪本社社会部 ※画像は一部修整しています)
ママはこう振り返る。
「全く関係ないのに、ある日突然、知らない人から毎日のように『死ね』と罵倒され、なぜこんなことになるのか全くわからなかった。当時は恐ろしくて、精神的におかしくなりそうだった」
根も葉もない話がなぜ広がったのか。私たちは、デマを信じ込んで広めてしまった人に話を聞いた。
『情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体』(著:読売新聞大阪本社社会部/中央公論新社)
大阪市内の自営業の男性はツイッターで、ママがコロナに感染しているのに志村さんの誕生日パーティーに参加したと投稿していた。私たちが事実ではないと伝えると、「えっ、あれはデマだったんですか」と驚いた反応を示した。
男性は小学生の頃から志村さんの大ファンだった。訃報にショックを受けていた時、「北新地のママが感染させた」という情報に触れ、ママに対して怒りを覚えたという。
「コロナに感染しているのに東京に行くなんて、なんでそんな不謹慎なことをするのかと腹が立ちました」
男性は当時の心境を語った。