雨宮 純×吉田悠軌 実話怪談、都市伝説、オカルト――「ここではないどこか」を求めて
都市伝説のやっかいさ
――都市伝説という人気のあるジャンルも存在します。実話怪談、陰謀論との関わりについてはいかがでしょうか。
雨宮 そもそも怪談と陰謀論はそんなに近くないと思うんです。
吉田 はい、内容面で考えると近くはないですね。
雨宮 ところが、両者の間に都市伝説をはめると一緒になってしまう。アメリカの民俗学者ジャン・ハロルド・ブルンヴァンの本の書名にもなっていますが、「消えるヒッチハイカー」は都市伝説として有名な話です。それがパターン化して「タクシーの客が実は幽霊だった」といった怪談になる。あとは、どこそこの企業のシンボルマークにフリーメイソンの記号が入っているといった都市伝説は、陰謀論に含まれるでしょう。都市伝説が怪談も陰謀論も取り込んでしまっているので、ライトな受容層から見れば全部一緒になっている。
吉田 都市伝説というジャンルの浸透は、2000年代後半以降の「やりすぎ都市伝説」(バラエティ番組「やりすぎコージー」〔テレビ東京系〕の人気コーナー)の影響が大きいですね。あの番組は都市伝説の概念をあまりにも広い意味で使ってしまっていると思います。
雨宮 1990年代はじめのブームの時は、都市的な環境において口伝えで広まっていく得体の知れない噂話として都市伝説の姿をちゃんと捉えていたと思うんです。しかし2000年代後半に「やりすぎ」が出てきて注目を集めていった第2波くらいのブームの頃からおかしくなってくる。同番組での都市伝説の語り手である、お笑いコンビ・ハローバイバイ(09年に解散)の関暁夫さんの本も、2巻目から日ユ同祖論とかオカルトの伝統的なネタが入っているし、最近では地球外の知的生命体であるバシャールの話を取り上げていたりする。それは都市伝説というより、目に見えない世界などを扱うスピリチュアルの話だろうと思うのですが......。
吉田 ちゃんと区別すべき位相が混在してしまっていますよね。「都市で生活している人たちの間に広まるよくわからない話」という位相だけだと、陰謀論も実話怪談も都市伝説も全部一緒に見られがちです。
都市伝説と実話怪談の大きな違いは、体験者を担保できるか否かでしょうね。実話怪談には体験者が実在するが、都市伝説には体験者がいない、という風に分けられる。また、陰謀論は何か目的があって誰かが語っているのに対し、もともと都市伝説は何の目的もなくただ口コミで社会に広まっていく噂です。
こういう区別をせずに、その場ごとに都合よく位相を変えて何でも都市伝説へと接続しちゃっているのが「やりすぎ」であったし、また多くの人びともそうなのでしょう。
雨宮 20世紀半ばの有名な都市伝説で「オルレアンの噂」と呼ばれるものがあります。フランスのあるブティックを訪れた女性が忽然と消えてしまう。実は店には地下通路があり、女性はさらわれて中東で売春をさせられていた──といったものです。その店主はユダヤ人だとされており、実は根深いユダヤ人差別を思わせる話でもある。ユダヤ人が人をさらってうんぬんというのは、昔からある反ユダヤ主義に基づく陰謀論です。この話をユダヤ人差別の話と見るか、単に女性が消える不思議な話として見るかで捉え方はかなり変わる。でも、ちゃんと区別しないとそこはごっちゃになりますね。
(続きは『中央公論』2023年12月号で)
構成:鴇田義晴
思春期にカルト宗教による事件が多発したことから、新宗教に関心を持つ。オカルト検証好きが高じて、理工系大学院を修了し現在に至る。著書に『あなたを陰謀論者にする言葉』、共著に『カルト・オカルト』『コンスピリチュアリティ入門』がある。
◆吉田悠軌〔よしだゆうき〕
1980年東京都生まれ。早稲田大学卒業後にライター、編集活動を開始。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長を務め、オカルトや怪談の研究をライフワークとする。『禁足地巡礼』『一生忘れない怖い話の語り方』『現代怪談考』『新宿怪談』『中央線怪談』など著書多数。