岩田健太郎 合理的にリスクを取って豊かな日常生活を

岩田健太郎(神戸大学都市安全研究センター教授)

快不快と良い悪いの区別

 なかには、「煙草の煙や臭いが嫌だ」という人もいる。場合によっては、喫煙している様子を見ているだけで不快だという人もいるかもしれない。しかし、不愉快だという理由だけで禁止していいと考えてはいけない。快不快を禁止の根拠にしてしまうと、極端に言えば、禿げた人が歩いているのが不愉快だから、外を歩くべきではないとか、帽子を被れということになりかねない。

 しかし、日本では、好き嫌いや快不快の問題が、容易に良い悪いの問題に変換される傾向がある。自分の好き嫌いは、果たして公共に適用できる類いの価値の問題なのか、個人的な好みでしかないのかは吟味しなければならない。快不快は、あくまでも個人の問題である。個人の問題をパブリックの善悪にすり替えてはいけない。そこを取り違えてしまうと、価値の交換が上手にできなくなる。

 判断基準となるファクトについては、みなで共通認識を持ち、最終的な意思決定は個人の自由を尊重するのがよいと思う。しかし、それもなかなか難しいのが現状だ。

 例えば、煙草の健康被害と同じように、お酒の健康被害も非常に大きい。だから、煙草を全面的に禁止すべきだと主張する人はお酒も全面的に禁止すべきだという意見に同調しないと筋が通らない。しかし、実際には喫煙の禁止には同意しても、お酒についてはかなりゆるやかな人が多いようだ。

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