岩田健太郎 合理的にリスクを取って豊かな日常生活を

岩田健太郎(神戸大学都市安全研究センター教授)

ちょうどいいバランスを探して

 健康は総合的に判断するものだから、心の健康も考えて、ある程度おおらかに、多少の不健康なアイテムを受け入れることも大事だと思う。

 高い山に登るのは健康リスクになる。生命保険に入る時に、危険な登山をするかどうかを確認されることからも明らかだ。しかし、登山家に山に登るなと言うのは、生きる目的を諦めろと言っているようなもので、本末転倒だろう。

 かといって、「山で死ねれば本望だ」というのも、少なくとも現代では合理的とは言えないだろう。登山に必要なしっかりした道具や服装を用意し、できる範囲で緊急時の対策を取ることが、現実的なリスク回避になるはずだ。

 私はこの間、サッカーをしている時に膝の前十字靭帯が切れてしまい、手術を受けた。しかし、回復したらサッカーをまた続けるつもりだ。膝のことだけを考えたらサッカーをしないほうが正解だが、そのリスクはある程度呑み込んで、無意味な怪我をしないよう注意して競技に復帰する。そういったちょうどいいバランスを探していきたいと思う。

 これを私は「ラショナル・リスク・テイキング(rational risk taking)」と呼んでいる。リスクを完全に避けるのではなく、ラショナル=合理的なリスクの取り方をすることが重要だ。それは健康についても言えることなのである。


構成:戸矢晃一

中央公論 2023年12月号
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岩田健太郎(神戸大学都市安全研究センター教授)
〔いわたけんたろう〕
1971年島根県生まれ。97年島根医科大学(現・島根大学)卒業。博士(医学)。沖縄県立中部病院、米国セントルークス・ルーズベルト病院、亀田総合病院などを経て、2008年より神戸大学教授。『新型コロナウイルスの真実』『丁寧に考える新型コロナ』など著書多数。最新刊は『ワクチンを学び直す』。
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