牛窪 恵×山田昌弘×干場弓子「結婚に恋愛は必要なのか?」

牛窪 恵(インフィニティ代表取締役)×山田昌弘(中央大学教授)×干場弓子(BOW&PARTNERS 代表)
干場弓子氏(左)、山田昌弘氏(中央)、牛窪 恵氏(右)
 恋愛や結婚を費用対効果で捉える若者が増えてきている。ロマンチックな感情だけで相手を選ぶ時代は過去のものか。テレビ番組への出演も多い世代・トレンド評論家、「パラサイト・シングル」「婚活」などの流行語を生んだ社会学者、両者の著作を手がけた編集者が語り合った(3月26日にアカデミーヒルズ主催で行われたイベントです)。
(『中央公論』2024年6月号より抜粋)

少子化の原因は経済格差

干場 少子化、出生率の低下は先進国に共通した課題ですが、かつて低かったドイツ、フランスは持ち直し、今は低い順に韓国、シンガポール、イタリア、日本となっています。2022年の合計特殊出生率は日本が1.26なのに対し、韓国はなんと0.72。いったい何が起きているのでしょうか。


山田 0.72は、これが続くと出生数が3分の1になってしまうほどの危機的数字です。私が昨年来、韓国の講演に頻繁に呼ばれるようになりました。

 少子化の原因は、さまざまな意味での格差の拡大というのが私の見立てです。韓国に比べれば日本の少子化がまだマシなのは、格差の広がりが緩やかだからです。

 韓国では、よい大学を出てヒョンデやサムスンのような大企業に就職できれば、月60~70万円の初任給が期待できます。1990年代後半のアジア金融危機後、グローバル化の進んだ韓国のエリートは英語がペラペラで、理系は数学もできる。欧米企業並みに給料を出さなければ、優秀な人材が海外流出するからです。他方、失業率も10%以上です。つまり一流企業の社員で1000万円の年収を得る人もいれば、ほぼゼロの人もたくさんいる。どうせ結婚するなら前者としたい人が多いので、婚姻数が少なくなるわけです。


干場 韓国では結婚できても、政府の子育て支援給付金だけでは競争に勝てない。我が子により高度な教育を施すためには、塾の費用が年間数千万円も必要だとか。


山田 昨年、韓国のテレビ収録で若者100人に「もし結婚して子どもができたら、どこまでの学歴を我が子に与えたいですか」と質問したところ、3分の1が「海外留学をさせたい」と答えたので、驚きました。

 海外留学させることを考えると子どもは何人も産めないし、収入の低い相手とは結婚できない......と連鎖しているのが今の韓国なのだと思います。韓流ドラマを見る限り、韓国では恋愛が盛んだと思ったのですが、現地の人曰く、「あれはドラマですから」と(笑)。たとえ恋愛関係になっても、お金がなければ結婚・出産には踏み切らない。最近は、韓国人女性に比べればお金にこだわらない日本人女性が、韓国人男性と結婚するケースが増えています。


干場 経済力で人を格付けする傾向も、韓国のほうが強いのでしょうか。


山田 見栄や世間体を気にするアジア諸国の中でも、韓国は特別ですね。親が「貧乏な家の子とは遊んじゃいけない」と平気で言うそうです。幼少期から競争と格差の意識を植え付けられた世代が、今、20~30代に達しているのです。

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